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我に返り、腕の中から出ればそこには執事の小笠原さん。
小笠原「…もうそろそろよろしいですか?」
辺りを見れば、気を利かせたのかドクターも根本さんもいなくなっていた。
祐「…あぁ……小笠原、いつから?」
小笠原「…ずっと待機しておりますが……」
ということは、私たちの会話の全てを聞かれていたということだろう。
なんだか恥ずかしい。
祐「…悪かったね。あぁ、そっか。食事を用意してもらってたんだな。」
小笠原「シェフもいつ来られるのかと待機しておりますので……」
どうやら、この病院の近くにある彼の経営するホテルで食事をとるようだ。
祐「そうか。待たせてしまったね。ん、小笠原、シェフ達には特別手当の支給を頼む。」
小笠原「そのつもりでございます。では行きましょう。」
エレベーターへと向かっていく小笠原さんの足取りを見れば、かなり待たせてしまっていたことが分かる。
それなのに私は―――……
穴があったら入りたい気分だ。
祐「…ん、じゃ、行こうか。梨乃もお腹空いただろ?明日は総会だし頑張らないといけないからね。たくさん食べるといいよ。」
そこには優しく穏やかで余裕ないつもの彼。
だけど、彼にだって不安や恐怖などといった感情も介在する。
その全ての感情を私は受け止められるパートナーになりたいと思う。
そしていつか、本当の家族に――…
そんな彼の腕に私は自身の腕を絡ませた。
梨乃「うん。食べる。いっぱい食べて元気でいる。で、いつか根本さんたちにまた会いに行こう?」
彼との子供を身籠って、命の誕生を喜び合いたい。
その台詞に彼が驚いたような顔を見せた。
祐「…まったく……梨乃にはやられるな……ん、まぁ、いずれね……クスッ…」
互いに想いを確かめ合うように手を絡ませ、私たちは小笠原さんの待つエレベーターへと向かった。
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