動揺

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梨乃が教室へ入ってくると俺は早々に彼女に声を掛けた。 彼女はやはり生徒会の仕事をしていたようだ。 もうすぐ俺には陸上の大会が差し迫っている。 そういうこともあり、今週の総会の準備も任せきりになっている。 他の委員にヘルプを頼めないこともないが、最終の段階は下級生に手伝ってもらうことはないと彼女一人でやってくれている。 そんな彼女は俺の体調を気遣う。 週末、彼女の父親である藤沢選手が俺の指導をしてくれていた。 そのことが気になっていたのだろう。 俺に無理をさせているのではと思っていたようだ。 だが、そんな心配はいらない。 翌日に疲れが残らないようにと最高のクールダウン方法を教えてもらい、昨日の今日だと言うのに俺は今日も朝練に励むことができた。 今のところ大会に向けて仕上がりは上々といったところか。 (今日の放課後は少し彼女の手伝いをしてから部に出よう。) そんなことを思っていた矢先だった。 担任が転校生の席を俺の隣へ指定した。 そして面倒を見るようにと俺に世話係をも指名。 この多忙な時にそんな役回りを与えてくるとか勘弁してもらいたいが、仕方がない。 そうこうしていたら転校生が俺の方へとやってくる。 と、その時だった。 転校生が梨乃の名を呼んだ。 見れば、その転校生があっという間に彼女を抱き締めている!? 唖然としていると彼女が転校生を押し退けた。 暫くの間、彼女と転校生の間で英語での会話が繰り広げられた。 その状況から少なくとも彼女にとって良くないことが起こったことは確かだった。 転校生が席に座った直後、俺は彼女に声を掛けた。 奏多「梨乃?HR終わったら話そうか……」 梨乃「…ぁ……うん、分かった。」 一瞬だが平常心を失った彼女の表情を俺は見逃さなかった。 二人の関係は今この場所で話せることではなさそうだ。 彼女の心を乱したこの転校生は一体何者なのか。 HRの間、俺はそのことが頭から離れなかった。
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