動揺

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目的地であるその空教室。 軽くノックをしてドアを開ければやはり彼女はいた。 梨乃「…奏多……」 そこには珍しく動揺した彼女がいる。 辺りを見回し、サッとその空教室の中へ入り込むと俺は鍵を閉める。 奏多「梨乃、大丈夫か?」 その問いかけに彼女はため息を漏らした。 梨乃「…大丈夫……とは言い切れないかな…」 そう言って何とも言えない複雑な表情をしている。 奏多「…知り合い……だよね?」 休み時間は10分しかない。 もう少し時間をかけて話をした方がいいのかもしれない。 だが、時間が無さ過ぎる。 彼女のこの動揺をなんとかするべきだと思った俺は切り込んだ。 奏多「あの転校生……」 梨乃「ロスにいた時の知り合い。パパと同じチームメートだった人の息子なんだよね。」 藤沢選手の現役時のチームメートの子供。 となれば、間違いなくその転校生は梨乃が藤沢選手の娘だということを知っている。 これまで元大リーガーの娘ということを公にしてこなかった彼女とすれば大ピンチと言ったところか。 梨乃「まさか、アレクがこんなところに……どうして……」 それでなくてもその容貌から目立つ存在の彼女。 特別視を嫌がる彼女がこれ以上目立つ材料を表に出したくないその思いは何度となく聞いてきたから俺は理解しているつもりだ。 ひとまず転校生の口封じをするのが先か。 奏多「話をしておいた方がいいんじゃ……」 梨乃「うん、そうだね。けど、ちょっと面倒な人なんだよね。」 奏多「面倒って……?」 梨乃「んー…なんて言うんだろう……駆け引きが得意っていうか……」 将来の夢が国際弁護士である彼女。 論理的に言葉巧みに相手をねじ伏せるのは得意なはずだ。 しかしその彼女が苦手意識を持っているということは相当な相手なのかもしれない。
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