待ち焦がれた瞬間

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暫く自転車を走らせていると自転車道路に差し掛かった。 人通りの少ない時間帯。 辺りに人がいないのを確認したのを見計らって奏多が話し始めた。 梨乃「え?旅館(うち)に泊まるの?」 聞けば奏多は今夜急遽うちに泊まることになったという。 県大会を目前にパパが奏多に最終のトレーニングを集中的にやろうと言い出したとか。 奏多「ごめん。断ったんだけど押し切られてしまってさ…」 そう言って奏多は申し訳なさそうな顔を見せた。 梨乃「謝ることないよ。っていうかごめんね、うちのパパが。あの人言い出したら聞かなくて。迷惑かけちゃってるね。」 奏多「迷惑だなんてとんでもない。有難いよ。けど、こんなにしてもらって悪いなって。」 梨乃「悪くないよ。パパが好きでやってるんだし。ん、頑張って?うちのパパなんかが役に立つならいくらでも使っちゃって?」 奏多「使うだなんて……あぁ、梨乃は今日は大泉さんが帰ってくるんだよね?」 梨乃「…あ、うん。先に帰り着ければいいんだけど……」 今日、ゆうちゃんが上海から帰ってくる。 彼は世界を股にかける大泉グループのCEO。 月に何度も出張で海外へ飛んでいる。 ちょうど先週の金曜日、上海へ向かったのだが帰国は今日。 夕方には着くとのことだが。 奏多「だったら尚更急がなきゃだな。」 そういってクスッと笑うと奏多は自転車の回転数を上げた。
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