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奏多は私を自宅マンションの前まで送ってくれた。
少し前から私は実家から近いここで暮らしている。
梨乃「送ってくれてありがとう。」
あの出来事から変わらず奏多は私をこうやってマンションの前まで送ってくれている。
数週間前、この穏やかな町で起こった出来事―――
そんな出来事が起こるなんて誰が思っていただろうか。
薬物絡みのその事件に巻き込まれた奏多と私。
そしてそこから知った愛する人の過去。
それはあまりにも衝撃的で複雑過ぎて、全てを理解するには時間がかった。
だけどそれは過去のこと。
今、私の前にある現実が全て。
信じるべきものは目の前にある。
そこには愛する人が私に目を向けてくれているという事実。
過去に捕らわれるよりも、目の前にある事実を信じることを私は決めた。
その深い真実の愛に一切偽りは感じられない。
ならば私はそれを信じるだけ。
愛を求めて愛を受け入れようと決めた。
何があろうとも。
奏多「どういたしまして。じゃ、俺、行くから…」
笑顔を向けた奏多。
いつもなら道場へ向かうはずが、今日は真逆の方向へと自転車を向ける。
その光景がなんだか不思議な感じがする。
と、その時だった。
その先の角から見覚えのある車が曲がってくるのが見えた。
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