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見慣れた景色が次々と変わっていく―――
私は今、ぼんやりしながら窓の外を眺めている。
こんな風に車で学校まで送ってもらうことはいつ以来だろう。
大泉グループCEOの婚約者となれば、その身が危うい時もあることは理解ってはいる。
でも、高校生活というのは人生で一度きり。
できるだけ日本の高校生らしく過ごしたいと無理を言い、毎日自転車通学をしている。
ロスにいた頃はいつも車で送り迎えをしてもらっていた。
自転車通学というものに憧れはあった。
だけど当時の私には、それよりも彼に会えることの方が魅力的だった。
日本へ帰国後━━━
パパやママからこの町では自転車通学が普通だと言われた私は、この町の同じ年代の子達と同様、自転車通学を始めた。
その解放感は想像以上だった。
今では自転車での通学は私にとって一日の中でも楽しみの時間帯となっている。
何もない田舎道ではある。
けれど、四季によってその風景は全く違ったものになる。
何気ないその毎日が今では私にとって大切な日常。
だけど、今日ばかりはそれを手離す必要があった。
祐「…もうすぐだけど…大丈夫そう?」
隣には心配そうに私を見つめる彼が座っている。
梨乃「…大丈夫………」
そう言いながらも一抹の不安を抱えていたりする。
でも、こんな気持ちを彼に知られたくない。
平静を装いつつ、私は鞄を引き寄せた。
その瞬間だった―――
…――ズキッ――――…
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