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「積もる話は、家でしましょうか」という彼女の言葉に頷いて、俺達は移動を始めた。もちろん抜かりなく、ラピチェの実は回収済みである。
道中で魔物が現れることもなく、無事に彼女の家まで辿り着いた事に、緊張の糸を解く。さすがに、病みと上がりの精霊様を戦わせる訳にはいかないので、警戒しておくに越したことはないと考えての事だった。ふぅと一息ついて、玄関の扉を開けた彼女の後に続く。
「お邪魔します。」
[ふふっ。そんなに畏まらなくても良いのですよ?どうぞ、お掛けになって下さいな。今、お茶を入れますから。]
「あ、えっと。お構いなく…」
なんだか精霊といえど、普通に人のようでいまいちピンと来ていない。何が違うのかを見た目で判断するのは難しい事だろう。というか、多分違いなんてない。強いて言うなら、初めて見た時にも思った、なんだか雰囲気が神秘的というかなんというか…
[おそらく、そう見えるのは魔素や魔力が関係しているからなのかもしれませんね。]
返ってきた言葉にびくりと身体を揺らす。これは…慣れるまでに相当な時間が掛かるかもしれない…。
「ま、魔素と魔力…?」
[ええ。そのままの意味で魔法の素となっているのが“魔素“。
大気中の魔素を集めて、魔法として使う事が出来るよう属性を付与し、力へと変換したものを“魔力“と、我々は呼んでいます。人はこの魔素から魔力への変換が出来ないので、精霊の力を借りる必要があるんですよ。
因みに大気中の魔素は増え過ぎると害を及ぼし、魔物はその魔素を素に生まれます。精霊だけですと、魔法の使用頻度はあまりにも低い為、多くを使って頂ける人に魔力を貸しているという訳です。]
「へぇ…知らなかった。なんで力を貸して貰えてるのかずっと不思議だったんだけど、そういう仕組みになってたんだね。あぁ、だから使える属性も限られるのか…」
[そういう事です。精霊は通常、無属性を除き一つしか属性を持ちません。相性の良い精霊一人につき一属性。つまり、大抵の人は一属性しか使用する事が出来ないということですね。稀にいる精霊に好かれるタイプであれば、複数の属性が扱えるようですが。]
なるほど。これはとても興味深いことが聞けた。
今までにいくつかの魔法に関する本を目に通してきたが、こんな風にちゃんと書かれているものはひとつもなかったように思う。中でもひどいものは、人が精霊から力を借りてやっているだとかなんとか…よく出版出来たなって感じのものまであったはずだ。
皆、正解なんて知らずにそれっぽい適当な事を書いてたということなのだろう。人は本当に狡い生き物だ。
知らないものを知らないままに。自分の都合の良いように…。
[仕方ありませんよ。力の使い方さえ知ってしまえば、わざわざ仕組みまでを気にする方は居ないに等しいですから。
さて、お待たせしてすみません。こちらハーブティーです。]
また思考を読まれたのだろう。俺の思いに返答しつつ、ティーカップを並べてくれる彼女に、ぺこりと頭を軽く下げてからお礼を告げた。
「あ、えっと。ありがとうございます、頂きます。」
なんだか、イマイチ接し方が難しいように思う。
会話自体は敬語にしなくちゃと思うのだけれど、心の中まで敬語という訳にはいかない。読まれている以上、俺が普段敬語を使わないなんてことは、とうにバレてはいるはずで、どうも形だけ敬語になっている感が否めないのだ。
バレている敬語って、果たしてちゃんと意味はある…?
[お好きなようにお話しして頂いて良いのですよ?私のこれはクセの様なものですが、ディル様は違うのでしょうから。]
「あ、うん…えっと。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな?ところで、その様付けは…」
[お嫌いでした?]
「いや、嫌いとかじゃなくて。聞き慣れなくて落ち着かないというかなんというか…」
[んー、ではこれから慣れて下さいな。思考が読まれる事も含めて。]
「…まじか。」
まさか、慣れろと言われるとは思いもしなかった。じゃあ、変えますね的な展開を予想していた訳なんだが…珍しく読みが外れたなと頬を掻く。意外と、自分で決めた事は曲げないタイプなのかもしれない。
ティーセットを載せていたトレーをキッチンへと戻した彼女は、テーブルを挟んで向かいのイスに腰を掛けた。
そして、柔らかな笑みを絶やさぬまま、口にする。
[さて。ではそろそろ本題に入りましょうか。]
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