第一章

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[まず先に挨拶から、ですね。私の名はシルフィーネ…。フィーネとお呼び下さい。既にご存知だとは思いますが、属性は風になります。歳は、ぜひとも聞かないようにお願い致しますね。] 彼女の言葉に真っ先に思ったのは、精霊にも個々の名前があったんだなということ。以前それとなく調べた際に、大精霊と呼ばれる上位の精霊達に固有の名があるというのは明記されていたのだが、その他の一般的な精霊達に関する情報はさっぱりだった。 人は、いささか精霊に関しての知識が足りないように思う。知る機会が無かったのか、はたまた知ろうとしなかったのかは、分からないが。 あぁ、中には知ってて隠してる…人もいるのか。 いずれにせよ、力を使用する以上は万人がちゃんと理解しておくべきだろうに。 …歳については今後一切触れないと誓おうと思う。見間違いでなければ、そこだけ笑みが黒かったのだ。触らぬ神に祟りなしとはこの事を言うのだろう。 「フィーネ、ね。…うん、覚えた。よろしくね。あと、ありがとう。俺に魔力を貸してくれて。」 [ふふっ。ディル様は良い子ですね。好きですよ、そういうマメな子。きっと、ご両親が立派な方なんでしょうねぇ。] 両親が立派…?確かに小さい頃から母さんに「挨拶とお礼、それから謝罪の三つだけは何がなんでも忘れちゃダメですよ。」とは言われ続けてきて、今となってはその大事さをが身に染みて分かるようになったが、父さんはこれと言って特に何もしてないように思う。片方は別に立派でも何でもないような? [ふふっ。あ、それはそうと私の謝罪がまだでしたね。巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。既にご存知の通り、ここは貴方が住んでいた街ではないのです。私が責任を持って元の場所へとお送り致しますので、ご安心下さいませ。] 深々と頭を下げたフィーネに驚き、慌てて口を開く。 「いや。巻き込んだっていうか、勝手に首を突っ込んだのはこっちなんだから、そんなに謝らないでよ。こうして出逢えたのも何かの縁だと思うし、さ。 あ、でも…。送って貰えるのはとてつもなく有難いから喜んでお願いしたいかも、なーんて。…ごめん、ずるいねこれ。」 [良いのですよ。元々そのつもりでしたから。ただ、残念な事に、来た時の様に一瞬で、という訳には行かないので、やはり自分達の足で向かわねばならないのですが…] 申し訳なさそうに眉を下げて告げるフィーネに、やっぱりなぁと苦笑いを浮かべた。 なんでも先程この場所に移動して来れたのは、事前に自身に何かあった時の為に、と魔法を残しておいたからだったらしい。 少し期待してしまった身としては残念ではあるが、そんな上手い話がある訳がないというのも、心のどこかでは思っていたため、仕方ないと割り切ることにする。当初の予定では一人で帰るつもりだったのだ。それに比べれば、道中の色々について詳しいであろうフィーネが居てくれるというのは、とても心強いことである。 [ここからサイレ行きの港がある場所までを考えると…早くてもあと二日程はかかりそうですね。本当にすみません。] フィーネの言葉から考えると、どうやらここはサイレ側の大陸から少し離れた場所に位置している森らしい。港まで行くのに丸一日使うという計算で間違いなさそうだ。 家に帰った時に両親から怒られるのは確定したも同然だが、こんな体験をする機会など後にも先にも今この時だけだろう。ならば、折角なのだ。今を楽しむという選択肢しかもう俺には残されていないように思う。 「なんか、ちょっと冒険っぽいね。」 […そう、ですかね?あ。ですが、道中には魔物もいますから、あまりピクニック気分にはならないようにお気を付け下さい。もちろん、私が全力でお守りする所存ではありますが!] 突然意気込む彼女に、思わず頬を掻く。こちらとしては、初めから病み上がりのフィーネを戦わせるつもりは無かったのだが、この勢いだといくら止めても無駄なような気がした。 明らかにやる気満々と言った様子に困ったなぁと思考を巡らせる。いや。でも、ここはきっと大人しく甘えておくのが吉か…。 「う、うん。分かった。頼りにしてるねフィーネ。改めてよろしく。」 [利口な判断ですね、ディル様。はい!こちらこそよろしくお願い致します。] ー
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