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第二章
軽い旅の支度をして(主にフィーネが)、俺達はここから東にあるという、サンジェルべと呼ばれる街へ行くこととなった。まずは森を抜けて、街道を通るルートで向かうそうだ。
今日はもうお昼なので暗くなる前にその街まで行き、一泊をしてから早朝に街を出て、トゥールス港まで行くという予定らしい。
サイレ行きの船便があるのは、今はまだそのトゥールス港だけなようで、向こうからアルカに行き来する際は必ず寄ることになるとのこと。俺が行ったこともあるそこは、かなり大きな港町で、珍しいものが沢山市場に並んでいた記憶がある。
確か、ルシィが不細工なぬいぐるみを欲しがって、 父さんがデレデレしながらそれを買ってたっけ…
サンジェルべは耳にした事がないため、初めての街ということになる。見たことの無い街というのは、いつ聞いても少しドキドキするもので、どんなところだろうかと期待に胸を膨らませた。
[さすがにトゥールス港ほど大きくはありませんが、そこそこ賑わっている街なんですよ。なんでも今時期はお祭りがあるのだとか。]
「へぇ、祭りかぁ。こっちの民はそういう伝統があるものを凄く大事にしているよね。サイレではあまりそういうのは見かけなかったから、ちょっと楽しみかも。」
[ふふっ。サクッと魔物を倒して急げば、夕刻辺りにはつけるかもしれません。早く着くことが出来れば、お祭りも満喫出来ると思いますよ。]
「え、ほんと?それなら、うんと頑張らなくちゃね。あ、けどフィーネは病み上がりだから頑張っちゃダメか。…くれぐれも無理はしないでよ?」
[ディル様は心配性ですねぇ。大丈夫ですよ、戦闘にはそこそこ自信がありますから!]
「…いや、そういう意味じゃないんだけど。…ま、いっか。」
ー
それから少しして、立ち上がったフィーネに目を向ける。どうやら旅の支度が終わったようだ。
[お待たせしてすみません。ようやく終わりました。ディル様の鞄も私の“ゲート“の中に入れておきますね]
「あ、スクールバッグのことすっかり忘れてたや。ていうか、え?なに、その口みたいなの…」
[ご存知ないですか?これがゲートというもので、簡単に言えば…そうですね、人で言う物置みたいなものです。]
「もの、おき…」
随分便利そうな聞こえだが、見た目はとてもシュールすぎて、苦笑いを零す。
何も無い場所に黒っぽいモヤのようなものが渦巻いていて、その口を大きく開けているのだ。そしてそこに何の躊躇も無く、荷物を入れていくフィーネの手は、まるでその黒いモヤに食べられているかのようにも見えて、本当に大丈夫なのかとつい疑ってしまうほどである。
[ふふっ。大丈夫ですよ。むしろ両手にいっぱい荷物を持った精霊の方がイヤでしょう?ですから、精霊間では自分達のものはこうしてゲートに入れることになっているんです。]
「へ、へぇ…。あれ、精霊間ではってことは、人は使えないってこと?」
[んー、多分難しいですね。ゲートの先は亜空間のようなもので、この魔法に関してだけは、空間の大精霊様のお力をお借りしているのです。全ての精霊が使えるようにと、大昔に配慮して下さったとお伺いしました。つまり、空間属性の精霊と相性の良い人間であれば、あるいは使えるかもしれませんが、それ以外の方には難しい…というか無理ではないかと。]
「なるほど、ね」
使えたら楽なのになとは思ったが、これは人には扱えない方が良い代物かもしれない。相当便利な分、色々な使い方が出来るからだ。確実にいるだろう。良からぬ事に使う人が。
折角の魔法が、悪用されたらたまったもんじゃないだろうしね…。
[…。では、行きましょうか。目指せサンジェルべ!です!]
「ん、そうだね。俺が前に出るから後方支援をよろしく。」
ー
何度か戦闘をこなして、道を進んでく。やはり森なだけあってか、動物系の魔物の数が多かった。すばしっこい相手だが、ナイフで接近戦をこなす俺に合わせて、フィーネが魔法を発動してくれるおかげで、特に手こずる事はなく、進みは順調と言えることだろう。俺の思考をフィーネが読めるというのが、大きいのかもしれない。戦闘中に至って言葉を交わせなくても動きが分かるというのは、相当に便利だ。
対人相手なら、ほんと反則レベルだよなぁ…これ。
[もうすぐ、森を抜けられますよ。]
「了解。フィーネ、疲れてない?大丈夫?」
[ふふっ。そんなひ弱ではありませんから、お気になさらず。というか、前衛と後衛を変わってくださっても良いんですよ?私、実は接近戦も得意なんです。]
「…え、まじか。凄いね精霊って…。けどほら、フィーネが怪我したら俺が嫌だから、さ。ぜひともそのまま後ろにいて下さい、お願いします…」
女の子を一人で前に立たせられる訳がないだろうに…
[そう仰ると思ってました。ですが、疲れた際はいつでも言って下さいね?]
「あ、はい…」
疲れた等、なるべく言いたくはないのだが、言わなかったとしても、どうせ読まれてバレてすぐに交代という未来が安易に想像出来る。ここは大人しく返事をする他ないだろう。あまり無駄な動きはせず、極力体力は温存しておこうと心に決めた。
前衛で戦える男が、女の子を前に後方支援は流石にいただけない…。俺のちっちゃなプライド的にも。
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