第二章

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というか、戦闘中に一つ気になったことがあるのを思い出し、口を開いた。 「そういえば、精霊って詠唱をしなくても魔法を出せるんだね。」 [うーん、精霊じゃなくてもそれは出来ますよ?むしろ、どうして人はあんなよく分からない事を言った後に、魔法名を言うのでしょうか?] 「え」 まさかの返答に驚きを隠せない。 なに、言わなくていい、の?まじで? [ちょっと恥ずかしいですよね、創造力を向上させる為…なのでしょうか?魔法は創造が基になって発動に繋がりますから。] 「…恥ずかしいってのには、同意しかないよ…。言わなくて良いなら、俺も極力言いたくないもの。けど、魔法に関する書物に書いてあったんだよ。魔法の発動には詠唱と魔法名、そして精霊の力の三つが必要であるって。なんなら、俺に魔法教えてくれた母さんも言ってたし…」 [ふむふむ。では、人の中ではそれが当たり前ということなんですね、きっと。なんだか不思議な感じです。同じ魔法なのに。] …同じ魔法でも、言わないと発動しないのと、言わないで発動するのじゃ偉い違いだ。戦闘なんてそれこそ生死の戦いで、一分一秒が大事になる。魔法名だけでいけるというのなら、それに越したことはないだろう。 「…あの、ちょっと試して見てもいい?」 [魔法をですか?構いませんけど、許可って必要です?] 「いや、ほら元はフィーネの魔力じゃない、無駄打ちしたら嫌がるかなって。」 [なるほど。ディル様は結構細かいんですね。] 「え。これ、細かいって言う?」 [ふふっ。では、そんなディル様に一つお願いがございます。あの木の上にある緑色の実、見えます?] 前方にある一本の木を指差して言うフィーネに続いて、上を見上げる。同色のため葉に紛れて見えにくいが、確かに丸い実がなっているのが見えた。 「ん、結構高い位置にあるね。確かヘルゥの実、だったっけ。」 [そうです、そうです!私あの実が大好きなんです。見た目に反してとっても甘いんですよ。] 「へぇ、そうなんだ。向こうでは見ないから、食べた事はなかったなぁ。あれ、もしかしてお願いって…」 [はい、お察しの通りです。魔法でアレを落として下さい!そうすれば、無駄打ちにはならないでしょう?] なるほど。どうやら逆に気を使わせてしまったらしい。 「…なんか、ごめん。ありがとうね。よし、じゃあ任せて!」 ぐっと腕を捲り、実の方へと手を掲げる。意識を集中させ、先程フィーネが言っていた魔法の創造とやらを頭に思い描いた。 “ウィンドランス” 告げた魔法名と共に、緑色の槍を象った風が、実のなっている枝を割く。落ちてくる実を下で構えていたフィーネは、すかさず風の魔力を使って見事にキャッチしていた。 「本当に発動出来ちゃったよ…」 [流石です、ディル様!そして、ありがとうございます!] 「いや、寧ろこちらこそありがとう…」 威力が強くなればなるほど詠唱も長くなるため、魔法の使用には記憶力も必要だったのだ。それがなくなるということは、大いに有難い。 今までは使う機会も無かったので、魔法自体にそんなに興味も無かったのだが、折角なので家に着いたら風魔法の勉強をしようと思う。楽しみだなぁ。 ー ヘルゥの実を食べ、少しの休憩を取った俺達は、また森を歩き始めていた。ようやく森が開ける。 「ふぅ〜、あともう一息だね。」 [今日は、ですけどね。お家まではまだまだありますよ〜] 「フィーネ、今それ言っちゃうの…」 [ふふっ。油断は禁物ですから。] まあ、確かにそうなんだけど…と現実を突きつけて来たフィーネに、思わず肩を竦めた。 視界が開けたことで、遠くまで見ることが出来るようになり、目を凝らす。 ん?あそこに見えるのは… [そうです。少しだけ見えるあの建物達がサンジェルべの街ですよ。この調子だと、お祭りは十分に楽しめそうですね。] 見えるのと見えないのとでは、気持ちの持ち用が全然違う。フィーネの言葉に頷き、目に届く範囲で辿り着くという事実に、そっと息をついた。 よし、頑張るか。 ー 戦闘もそれなりにこなし、街まで後少しといった頃… 突然フィーネから声が掛かり足を止める。 [あ、そうだ。ディル様。街に着く前にお話ししておく事があります。] 改まる彼女を見て、ん?と首を傾げる。 もしかして、追われていた理由、とかだろうか。彼女は今の今までその話題について言葉を発して来なかった。いつでも話せる機会があったというのにも関わらず、だ。全く振って来ないということは余程言いたくない事なのかと、深く追求するのはやめようと思っていた訳なのだが… […えっと、すみません。それについては少し長くなるので、移動を終え、宿に着いてから…お伝えしようと思っていたのです。] 「…あ。いや、ごめん。俺の方こそ、催促したみたいになっちゃって…。あれ、って事は今言おうとしてたのは全く別のこと?」 やっちゃったなぁ…と頭に手を当て、がしがしと掻いた。 ついつい、忘れてしまいがちである。彼女にはこちらの思考が筒抜けであるということを。早く慣れておかないと、な…。 [良いんですよ、私もちゃんとお伝えしておかなかったのが悪いですから。…では、今お伝えしようとしていた事についてお話しますね。街に着いてからのディル様の行動に関することです。] 「…俺の行動?」 [はい。私の姿はディル様以外のアルカの民には視認出来ません。ですから、ディル様には街で…というより、人目につく場所では私とは会話はしないように気を付けて頂きたいのです。] 「え、そうなの?じゃあもし俺が声に出して喋ったとしたら…」 [そうですね。周りから見れば、一人でお話している不思議な人だと思われる事でしょう。あ、もちろんそれでも良いと仰るのであれば、私は別に構わないのですけれど…] 「いやいや、ダメ。そこは構って…」 [ふふっ。ですから事前にお伝えしたんですよ。ちなみに私の声もアルカの民には届かないので、話さなくても意思の疎通はちゃんと出来ますからね。] 要するに、俺は声に出さず頭の中で留めて、それを読んだフィーネは今まで通り声に出して答えてくれる…ということか。 「うん、分かった。つい喋っちゃいそうな気もしなくもないけど…極力気を付けるよ。ところで…さっきの言い方だと、サイレの民には見えるってことで良いの?」 […全員ではありませんが、ある特定の人物には視認出来るようです。私を追っていた人方のように、ね。こちらについても詳しくは宿でお話し致します。] ふーん…魔法が使えないサイレの民に見えて、逆に使えるアルカの民には見えない…か。 魔物には見えていたことを考えると…いや、余計な所作はやめておいた方が良いだろう。なんだかとても気になるけど、今は我慢する他ない。 [では、行きましょうディル様。お祭りはもうすぐですよ!] ー
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