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フィーネがまとめてくれた素材を持ち、宿の地下へと足を踏み入れる。祭りのせいか、この時間帯はあまり人がおらず、ちょうど良かったとすぐさま武具屋のカウンターへと向かった。どすっと音を立てて袋を置き、ふぅと息をつく。
結構、重たかったな…
「すみません、換金をお願いしたいのですが。」
「おう、いらっしゃい…って子供じゃねーか。ちゃんと金になるもん入ってるんだろうな?」
じろりと睨まれ、ここでも子供はダメだったかと頬を掻く。せめて俺にもう少し身長があれば、また違ったのかもしれないが…。
頼むから早く来いよ、成長期…
「…えっと、頼まれたんです。これを持っていてお金を貰って来て欲しいって。」
俺の言葉を聞き、袋に手を掛けた店主は、即座にその目の色を変える。
「ほう。ウルフとベアーの毛皮に爪…ボアの肉もあんのか。大量じゃねぇか。よくこんなに狩ったな。」
「運ぶの、大変でした…」
次々と素材を出し、品質を確かめるようにして触る店主を目に、頭の中でフィーネへと声をかける。
(そういえば、フィーネ。換金したお金、少し使っても大丈夫?ナイフの刃がちょっと…)
[もちろんです。そもそもそれはディル様のお金ですよ?私の許可なんて必要ありませんから。]
(え、でもゲート使わせてくれてるし、戦闘も俺一人でやった訳じゃ…)
[私こっちじゃ姿が見えないんですよ?どうやってお金を使えと?]
(…あ。えっと、じゃあ…欲しいものがあったらなんでも言ってね?)
[ふふっ。了解致しました。]
「まあ、こんだけありゃ確かに子供には大仕事だろうな。けど、きっと祭り用に小遣いでも貰えんだろ。頑張ったお前に、ちょっと色付けといてやるわ。」
「えっと、ありがとうございます。後もう一つお願いがありまして…」
「ん?なんだ、まだなんか頼まれてんのか。」
怪訝そうに皺を寄せる店主に、苦笑いで返す。
「斬れ味の良いナイフが欲しいそうなんです。なんでも、魔物相手に使うんだとか…」
「ほう。って事は多分、素材を剥ぐのに使うんだろうな。こんだけ狩れるなら、そりゃ斬れ味も悪くなるだろうよ。ちっと待ってな。良さげなやつ幾つか持ってきてやるわ。」
ー
「さて、待たせた。魔物相手ならこの二つがオススメだな。金額についてはなんか言われてるか?」
並べられたナイフを目に思考する。長さ的にはどちらもちょうど良く、今使っているものよりも少し長いくらいだろう。
問題は重さと斬れ味だが、流石に持たせて試させて下さいとは言えない為、どうしたものかと頭を悩ませる。
「いえ。ただ、長く使えて斬れる物の方が良いと。」
「ふーむ。買い物まで子供に任せるとは、随分な大人と一緒にいんのな。ぼったくられる心配はしてないのかねぇ。」
「ぼったくるつもりなんですか?」
「…いや、子供相手なら騙せる確証がある分、逆にぼったくりにくいんだよ。やった後の罪悪感がな…。ま、あくまで俺の話だが。」
困ったように頭を掻く店主に、どうやらただ子供に耐性がないタイプの人間だったかと分析する。こういうのには、素直にお願いするのが一番効くだろう。ラッキーだったな。
にこりと笑みを浮かべて口を開く。
「おじさん、優しいんですね。」
「…ほら、そういう所だよ。ったく…。」
「あの、ちょっとだけ触ってみてもいいですか?」
「…持つだけだからな。」
「ありがとうございます!」
ちょろいな、なんて思ったら性格が悪いだろうか?まあ、猫を被っている時点で決して良いとは言えないのだけれど。
まず、向かって右側の方に手を伸ばした。金色に光る金属で出来たそれは、想像より重く、これだと今まで通りにナイフを振るのは難しいかもしれないなと、元の場所に戻す。
もう片方は、一般的な銀色のナイフで、持ち手のグリップの部分に、翠色の小さな石が埋め込まれているものだった。重さは丁度良い。
ふーん。これなら…
[…ディル様、そのナイフ…]
突然フィーネに声をかけられ、動きを止める。
(どうしたの?こっちにしようかなって思ってたんだけど…)
[いえ、部屋に戻ってからお話致します。私もそちらのナイフが良いと思いますよ。斬れ味については保証致します。]
ふむ。きっと何かあるのだろう。微笑む彼女を横目に口を開いた。
「おじさん、僕こっちが欲しいです!」
「…お前さん見る目あるなと言いたい所だが、使うのは別の人だろ?良いのか?」
「んー、大丈夫だと思います!」
「…ならいっか。しゃあねぇ、一割だけまけといてやる。さっきの素材の金から引いておくからな。」
この街に来て初めて思った。子供で良かったと。良い事もあれば、悪い事もあるなぁと今日の事を振り返る。もうこれ以上、何も無いことを祈るばかりだ。
ナイフを木箱に、お金を袋にまとめてくれた店主がカウンターにそれらを置く。
「そら持ってきな。転ばないように気を付けろよ。」
「はい。ありがとうございました!」
ー
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