第二章

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街に着いたのが夕刻辺りで、なんだかんだ良い時間になっていたため、宿屋内にある食堂で夕食を済まし、部屋のシャワー室で身を清め、ごろりと再びベッドへと転がった。 窓の外から、ワイワイとした人々の声が聞こえ、今からが祭りの本番かぁなんて事を思う。気にならないと言えば嘘にはなるが、今日はもう歩きたくないと言うのも事実で、ちょうど良かったかもしれないなと目を閉じた。 あ、やばいこれ。すぐ寝ちゃいそう… [あの、ディル様。おやすみになられる前に私の追われていた経緯をお話しようかと思うのですが…] フィーネの言葉に、そういえばこの街に来る前に言っていたっけなぁと思い出す。彼女は律儀だ。こちらの思考が分かるのだから、そのまま放っておけば、振れずに済んだというのに。 「…ねぇ、フィーネ。言いたくないなら、無理に言わなくても良いんだよ?」 確かに気にはなるけれど、別に無理に聞こうとは思っていない。そもそもこうなった原因と言えば、俺が勝手に首を突っ込んだ事によって起きたことなのだ。あの場にいなければ、フィーネは一人でもあの家に帰れた訳だし、病み上がりでこんな風に動き回る事もなかった筈で。そう考えると、本当に余計な事をしでかしたんだなと、思わず自重する。 …もうなんか、全面的に俺が悪い気がしてきたんだけど。 [ディル様が悪いなんて事は絶対にありません!!] 珍しく声を張った彼女に驚いて、閉じていた目を開ける。 「んー、そう言ってくれると嬉しいけど、さ。よく考えたらただのお節介だったかなぁ…なーんて…」 妙にフィーネから来る視線が痛く、目を合わせる事が出来ない。これはもしや、怒らせた…かな。そんなつもりは無かったのだけれど。 […ディル様が下敷きになっていた私を助けて下さらなければ、そのまま力尽きていた事でしょう。仮に万が一、生き長らえていたとしても、追ってきていた人間に見つかり、捕らえられていた筈です。…助けて頂いた私が言うのはおかしな事だと承知していますが、もっと誇って下さい。自分がなさったことを…] 震えた声に、え?と顔を上げる。見えた、その表情に。慌てて身体を起こした。 「ちょ、え、待って。ごめん、ほんとごめん。謝るから、ね?泣かな…」 [泣いていません!怒っているんです!!] あ、はい…。すいません、ほんと…。 […後悔していますか、私を助けたことを。] 真っ直ぐと、こちらを見る目。 隠されたその言葉の意味を理解するのに数秒…。はっとした。 そうか…俺が責任を感じたように、フィーネも… 「…してないよ。お互い、ほら。ちゃんと生きてるし。」 寧ろ、今となっては感謝しているくらいなのだ。初めこそ驚き戸惑ったものの、今は純粋にこの小さな旅のようなものが楽しいと感じている。家に帰ったら、ルシィにも今日のことを話してあげようと思うくらいには、だ。 だから、フィーネが責任を感じる必要は無いんだよ。 […そうですか。今のお言葉…ディル様自身にも言えることですからね。くれぐれも忘れないで下さい。] 「え。あ、ハイ…わかりました…」 […では、お話を戻します。…出来る限りの事をお伝えしようとは思いますが、その…お言葉に甘えて、全てじゃなくても良いのでしょうか…?] 「ん?そりゃもちろん。なんなら、もうこのまま寝ても…」 [それはいけません!途中で寝て聞いてなかったなんて事のないようにして下さいよ?] ふむ。どうやら、無理をしているという訳ではないようだ。聞かせられる話と聞かせられない話があるのは、確定したも同然だが。まあそれを良いと言ったのは自分だし、その上で彼女が言うと決めたのなら、俺はちゃんと聞くべきなのであろう。アルカへと来る事になった原因を。 ー フィーネは初めに言った。[私には、誰になんと言われようとも果たさねばならない事があります。]と。 多分これは、俺の為の言葉だったんだと思う。 信じていたかった。 心のどこかできっと、嘘だと思いたかったんだと思う。 本当は、あの父の昔の話を聞いてから分かっていたはずだったのに。 語られる。真実に俺は――。 “フィーネのあの傷は、ローガス社が付けたものだった。“ ー
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