第三章

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ふむ。まあ確かに、もしあの移動魔法に細工をしたと考えるのであれば、精霊が自らの意思で、意図的にフィーネを過去へと飛ばしたと考えるのが妥当だろう。全く関係の無い第三者という線は、ほぼ無いに等しい。 ただ、一つ気がかりな事がある。その線で話を進めるとするならば、なぜわざわざこんな騙し討ちのように過去へと飛ばす必要があったのか、ということだ。 フィーネのお偉いさんの目的は分かる。精霊達が捕らえられた根源である断壁が壊される前の時間へと行き、破壊させないようにしたいのであろうということは。 だが、それをどうして精霊であるフィーネにまで隠す必要があったのかが、まるで分からなかった。 目的がはっきりしている以上、初めから伝えて思うように動いて貰う方がベストではないかと思う。それをわざわざ言わなかったのは…何か別に目的があるから、か? […断壁の有無は精霊の間でも賛否両論だったんです。] 呟く様に言うフィーネに、そうかと思い出す。彼女は世調和を体験した身なのだと。 断壁に関して、父さんは誓約がどうのと言っていたが、精霊はそれに該当しないのだろうか…。 [誓約、ですか。それについては、ある精霊と世調和に関わった人の間で行われたものでしたので、詳しくは存じません。ですが、理由については耳にした事があります。何でも、人が断壁に関する全容を知った際、精霊に仇なす者が数多く現れる可能性があると判断された為だったと。もちろん、精霊側は世調和について全員が認知しており、誓約などはありません。暗黙の了解として、人に話してはならないとはなってはいますが、そもそも対話する機会などは無いに等しいので、人の世では長らく詳細が伏せられたままになっているのだと思います。] なるほど、そういう事だったのかと妙に納得をした。人から人への決まりではなく、精霊と人との約束だったから両親は何も言えなかったのだ。しかもそれはおそらく、魔法か何かで交わしたのだろう。ただの口約束で、人がそれを守り続ける保証は無いに等しい。 […その通りです。ですが、私はディル様には全てを知る権利があると思っております。こうなってしまった以上、これから起こることを知る必要がある…。先程、こちらの宿のカウンターで日付を確認致しました。元の世界より、ちょうど十七年前…あと数日もすれば、世調和が行われるという時間軸です。] フィーネの言葉に、本当に過去に来たんだなと実感した。 にしても、十七年前…か。そりゃあ通りで、父さんも母さんも若いはずだ。 しかも母さんに至っては、そのまんま今の俺と同じ歳である。先程みた小さな女の子と、記憶にある母さんの身長はそれ程変わらないようには見えたが、幼さが残るせいか余計に小さく思えた。 父さんに至っては見た感じの雰囲気がまるで違い別人のようで。本人ではないと認識していた為、あの時は何とも思わなかったものの、今思い返せばあれは全て取り繕ったものだったのだと気付いた。人の良い笑みと言えばそうなのだが、父さんは本来あんな風に笑ったりはしない。 一体、幾つの仮面を持っているのだろう。この時間軸での仕事上仕方ないとは言え、素を知っている分、何だか可哀想にも思えた。 先日の父との会話を思い出す。ああやって、ずっと生きてきたのか。そうするしかなかったから… [ディル様…。] 何とも言えない表情をしたフィーネと目が合う。どうやら、少し自分の世界に入り過ぎていたようだ。 「ごめん、もう大丈夫。それで、知る権利があるって事は、俺に教えてくれるって事で良いの?」 […はい。まずは、断壁についてのお話しようと思います。存在するに至った経緯、なくなった理由を。] 願ったり叶ったり、だ。ずっと知りたいと願っていた。どうしてと疑問に思っていた。まあ…それがまさか、身を持って体験する機会を与えられる事になるとは、夢にも思わなかったが。 ていうか、そもそも俺ってちゃんと帰れるの?すごい今更だけど。 […その点も交えてお伝えしますね。] 律儀に答えてくれるフィーネに思わず苦笑いを零す。 こういう時まで、思考が読めるというのは結構大変かもしれない。 話を進めたくても、飛び交う疑問に全く進まなくなってしまうのだ。俺が思考を中断出来れば、何の問題もないのかもしれないが…。まあ、それはどう頑張っても無理な話である。 「さっきから、ほんとごめん。ちょっと色々思考が忙しくて煩いかもしれないけど、気にしないで話を進めて大丈夫だよ。どうしてもの時はちゃんと声に出して聞くようにするから。」 […いえ。私の方こそすみません。少しこちらも動揺していて、その…上手く伝えられないかもしれませんが…] 「うん、分かってる。話して貰えるなら、ゆっくりで良いよ。」 [ありがとうございます。それでは、お話致しますね。] ー
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