第三章

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まず、初めに。まだ人がいなかった頃…世界が分けられました。 あれは自然と自ら、そしてその民を守る為にと、当時の精霊の長が行なったことでした。 精霊が魔素を魔力に変えているというお話はしたと思います。ですが、あれは魔法を使う為だけのものではないのです。 そうですね…分かりやすく言えば、人で言うエネルギー源のようなもので、魔素から魔力へ変換出来なければ、精霊は存在を保てなくなり、消えてしまうのです。魔素の基は自然から出来ています。つまり自然がなくなれば、魔素もなくなる…。 現在サイレと呼ばれる側の大陸は、当時自然災害により大幅に自然が減少していました。精霊達は直ちに、アルカ側の大陸へと避難することとなったのです。 しかし、山や森は燃え盛り、水は減少し続け、このままではアルカ側の大陸にも被害が出ると言われていました。 苦渋の決断で、精霊の長はサイレ側の大陸を諦めるとし、断壁を発生させアルカの地と精霊を守る事に決め、実行に至ったのです。 しかし、長い時を経て問題が浮上しました。 元々は一つだったものを無理矢理半分にしたおかげで、アルカ側の魔素が急激に増加してしまったのです。 初めは何も知らず、分からず…精霊たちはそれを喜んでいました。なんせ自分達のエネルギー源が増えたのも同然でしたから。 ですが、事はそう簡単なものではありませんでした。 まず始めに、原因不明に倒れる者が急激に増えたのです。 原因自体はすぐに判明しましたが、問題はその対処法でした。 大気中の魔素の濃度が濃すぎて、力の弱い精霊達がそれを処理出来なくなってしまったのです。 自然を減らせれば済む話ではあるのですが、精霊が力の源である自然を自らの手で攻撃するのは禁忌… 各地に散らばっていた精霊達は身の危険を感じ、一つの場所に集まることとしました。里を作り、魔法を用いて魔力を消費し、自らが住む場所の魔素の濃度を減らしていく事で、力の弱い者を守ったのです。 こうして危機は去ったかのように見えましたが、それで終わりではありませんでした。 精霊が一箇所に留まった事により、里付近以外の場所では魔素を魔力へと変換するものがいなくなってしまったのです。 つまり、それが表すのは魔素の濃度は増す一方だということ…。 里に篭もる精霊達が知らぬ間に、当時は小さく大人しかった魔物が自分達が生きるためにと、濃い魔素を原動力とし進化を遂げていました。 精霊達が気付いた時にはもう既に全ての魔物が凶暴化しており、放っておけば里をも襲いかねない状態になっていて、精霊達は魔物を駆除するべきだと判断。力の強い精霊は里の外へと赴き、魔物の討伐にあたりました。 多くの魔物を倒し、討伐は成功。危機は逃れましたが、あくまでこれは一時的。 これ以上の魔物の凶暴化は危険だと認知した精霊の長は、自然の主となる大精霊…それぞれ火、水、風、地の四名を呼び出し、東西南北に別れて里を作る事を命じて魔素の濃度化を防ぐ事に決めたのです。 そうして、安定をもたらした頃に誕生したのがヒトでした。 精霊の長は思います。このままずっと濃度が増える危険性を考慮して、無意味に魔力を使うくらいなら、魔物より遥かに弱いヒトに力を貸し、魔素を多く消費させ、自らの生活をしやすいようにした方が確実に安全だと。 こちらの目論見通り、ヒトは力を受け、次々と村を増やし、魔素は本来の濃度へと戻っていきました。一度進化を遂げた魔物たちは、元に戻りこそしなかったものの、その時以上に強くなることは無く、ヒトの食料や素材として狩られ、均衡が保たれる事となったのです。 暫くは何事も無く、平穏に、長い時を過していました。 しかし、またもやその均衡が失われる機会が訪れます。 人は、知恵を持っていますね。知恵を持つ彼らが、精霊から与えられる力に疑問を抱くのは時間の問題でした。 魔力は相性が関係しているというのはご存知かと思いますが、それは魔力の道を作り、通すのに関係しています。良ければ通ずるし、悪ければ通じない。 同じ人でありながら、それぞれが違う力を持つ事に不満を抱いた一部の人は、精霊のあずかり知らぬ所で、自らの手でその力を作ることに決めました。 時間を掛け、完成したのは人工精霊と呼ばれるもの…。 ですが、その人工精霊はとても人に扱えるものではありませんでした。 違う属性の魔力を混ぜて作られたそれは、自我がほとんどなく、力はあれど扱うのは困難とされたのです。 暴れる人工精霊により、研究所は半壊。死者も多数。やっとの思いでそれを停止させた人々は、更に知恵を絞りました。扱えないのなら、扱えるように閉じ込めてしまえば良いのだと。 導き出した答えは、その人工精霊を人に宿す…という私達には到底考えられないものでした。 実験は成功…。人は徐々に精霊の力を使わなくなり、多くの属性を持つ人工精霊へと手を伸ばしていったのです。 ー
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