第三章

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「ていうか、ちょっと待って。ザガンが無くなったのは世調和が原因なんだよね?じゃあ、今俺達が居るここって…」 [はい。二つの国が存在していた際の時間軸になります。ちなみに現在いるトゥールス港はトゥル・ロワールの領土です。] まじ、か。 こくりと頷いて見せるフィーネに、これまたとんでもない時間軸に来たもんだなと思う。 いや、そもそも過去に来るなんてこと自体がとんでもないのだが。 ひとまず、現在地がトゥル・ロワール領であった事には安堵した。聞いた限りでは、ザガン側に良いイメージなどほぼ無いに等しいからだ。 それに戦争のために力を付けたというのなら、今あちらの国は緊迫した空気に違いないということが安易に予想出来る。 …にしても戦争、ねぇ。 同じ人であるのに、わざわざ争う意味が俺にはさっぱり分からなかった。多くの犠牲を払い、沢山の民やモノが危険に晒されるというのに。 領土を増やすなんてことがそんなに大事か?人の命よりも?俺には到底理解出来そうになかった。…いや、そもそも理解したくもないのだが。 簡単に終わる話では無いと覚悟はしていたつもりだった。しかし、予想以上に重く信じ難い事例が多い。 今の今まで何事も無く平和に暮らして来たのだ。いきなり、こんな魔物やら戦争やらの波乱の時代へと投げ込まれ、すぐさま事情を呑み込めと言われても、普通の13の子供には到底不可能な話であろう。 寧ろ、取り乱してないだけ凄いだろうな、と自分を褒めてやりたいくらいだった。 知りたいと願ったのは誰でもない自分自身なので、仕方がないと言えばそれまでなのだけれど。 「…続けて大丈夫だよ。」 […はい。精霊の長はどうするべきか迷いました。戦争は人と人との間で起こるもの。本来であれば、精霊がそこに手を出すことはあってはならないからです。しかし、事が事な上に、均衡が保たれていた魔素が人工精霊により濃くなりつつある世界で、戦争により自然にダメージが及べば今ある均衡は崩れ、事態はよりもっと悪くなってしまう…。正直、手詰まりでした。人工精霊の強さも当時の我々には分かりませんでしたから。] 人の手により生み出された精霊…。使われたのは精霊から借りている魔力と言っていたが、単一ではないのは明白だろう。複数の魔力が合わさったそれの威力は…。どの程度の魔力を集めたかにもよるだろうが、まあ考えずとも強いモノを集めたのであろう事は想像に難くない。 [少々理に反しますが、背に腹はかえられまいと判断し、長は再びトゥル・ロワールの王の元へと訪れました。そして告げます。ザガン王の意向についてを。救いだったのは、トゥル・ロワールの王は争いを好まず、話の通じる人物だったという事でした。戦争を起こそうとしているということと、こちらがザガンの戦力情報…人工精霊について伝えた事により、彼らは人工精霊の破壊を約束してくれたのです。] 約束、ね。 「…精霊が協力するっていう方向にはいかなかったんだ?」 [先程も言いましたが、人に魔力を貸している以上、その力の源である精霊が人と人との間に首を挟むのは、理に反する事になるのです。協力はしたくとも出来ませんでした。ですが、万が一にも人工精霊が残った場合を考え、その時は長自らが手を下し、責任を取ると。] 「…いやいや、待って。責任って何。だって、精霊達を守るために断壁を作ったのがその長なんだよね?じゃあ、もし人工精霊が残ってその長が破壊したとしたら、断壁はどう…」 そこでふと気付く。違う。だから、断壁は無くなったのかと。 […。我々の想像を遥かに超えていたのです。その人工精霊とやらは。それでも、長自らが手を下す必要はないと、大精霊達が集まり多くの意見が飛び交いました。 ですが、長は自分以外の精霊に、その責任を押し付ける訳にはいかないと、頑なに首を縦に振ることはありませんでした。 何より、生半可な力では、人工精霊を消すことすら危うかった…。多くの大精霊を犠牲にするよりは、長一人を。という結論に至ったのです。 それに、長は万一があったとしても、唯一再生が出来る精霊でもありました。] 「再、生…」 [つまり、一時的に断壁が無くなったとしても、再生さえすればまた創り出す事が出来るという事です。…長は言っていました。誰一人として精霊を失う訳にはいかない、刺し違えてでも人工精霊は消さなければ、と。] 精霊の頂点に立つ者…あまりイメージが湧かなかったが、どうやらとんでもない力を持っていたらしい。 いや、でもならどうして断壁は…? […私はその場にいた訳では無いので聞いた話になりますが、激しい衝突の末…決着が着く直前に、人工精霊をその身に宿したザガンの王と共に、長の姿も消えた…と。] 「消えた?どういうこと?」 […分からないと言うのです、誰一人として。しかしまるで、何かに吸い込まれるようにいなくなったと…]
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