第三章

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「…ん?ていうか、その言い方だと、何も知らないままじゃなければ良いってこと?」 […おそらく。確固たる証拠があれば…ですが。これはあくまで憶測に過ぎません。ですが、私を此処に連れて来た者の真意は、サイレ側の現状を長へと伝え、断壁を自らの手でなくしてもらう為…なのかもしれません。] なる、ほど。 長自らが人工精霊を破壊しようとして、姿を消した…。どちらにしても断壁が消える運命であるというのなら、長の救出をと考えたのか。 うーん、確かにそれだと辻褄が合うような気はするが、何か引っ掛かるような気もする。なんだ、なんかこう…ズレている?というか…。しかも、もしそれだと言うのなら、どうしてフィーネを選び、目的を伝えずに過去へと連れて行く必要があったのだろう。わざわざ彼女である必要も、俺にはさっぱりなのである。 「あれ。そもそも、これから起きることを、未来の人が過去の人に事前に伝えるってのはダメなんだっけ?」 […それはおそらく、人と人の争いに首を突っ込む事よりも理に反していると判断される気が致しますが…。しかし前例が無い分、どうなるかまでは分かり兼ねますね…] 困った表情を浮かべて口にした彼女に、だよなぁ、と頬掻く。 そんなに簡単に事が進むのなら、十七年なんていう時を待たずに、誰かしらがもうそれを実行に移している事だろう。存外、その理とやらは厳しいものらしい。 いや、待てよ?…それならやり直したいと願い、意図的に過去に戻るのも理に反する事になる、のか? だから、本人には何も伝えず、使うかどうかも分からない魔法に、過去へ渡る魔法を施した…起こるかもしれないという可能性に掛けて…? […それは、あるかもしれません。] 「…だよね、俺も思ったわ。けど、さ。仮に、この予想がそうだとして、断壁を自分で長に無くしてもらったとしても…。事の発端である人工精霊は消えない事になるし、何より精霊がサイレに捕えられるっていう未来は変わらなくない?」 […それでも、長がいる方が良いと考えたのでしょう…。] 話を聞く限り、とんでもない人…いや、精霊だと言うのは分かったが、そういうもん…なのだろうか。 長さえいれば、精霊が捕らわれることはない…とか?んー、でもどのみちそうすると、人工精霊の問題が… [あの、ディル様…先程から思っていたのですが、ちゃんとご理解なさっていますか?今の現状を。] 「え?何急に。うーん。大体は出来てると思うよ。これから起きる事も、一応は分かったし…」 […そういう意味ではなく。私がここに来たということは、何かしらをして未来を変える可能性があるということをです。 ディル様は、未来の人。そして、そのご両親は世調和について何かしらの関係を持っていた方なんですよね?…その、最悪の場合、未来を変えることでディル様の存在は無かったことになるという可能性もあるということなんですよ。] …ふむ。 告げられたフィーネの言葉に、言われて初めて気が付いたなと目を閉じる。そんな自分に少し呆れるも、それ程、頭が混乱していたということなのかもしれないなと改めて思った。 平然を装っているつもりでも、そうでも無かったのか…。 冷静に考えれば直ぐにでも分かる自分の現状についてを、後回しにしてしまうくらいには。 確かに、彼女の言う通りだった。未来の時間軸を持つ者が、ここで何かしらのアクションをすれば、必ずその未来は変わる。過去に来るということはそういうことでもあって、「あー…」と声にならない声を零した。 「まあでも、来ちゃったもんはもうしょうがないしね…」 […本当に、申し訳ありません…] 「いやいや、そんなに謝らないで。わざとじゃないんだし、さ。俺がフィーネを攻めるのはおもん違いでしょ?」 とか言いつつも、攻める相手がおらず、不完全燃焼のようにモヤが残っているのは少なからず事実なのだが。まあかと言って、本当にフィーネが悪くないと思っているのもまた事実だった。 …今、自分自身がどう在りたいのか、ぶっちゃけよく分からない状態なのである。 なんというか、ぐちゃぐちゃで。本当に、思考も。感情も。あまり頼りにはならなさそうだなと息をついた。 サイレからアルカに飛ばされた父さんも、こんな感じだったのだろうか。右も左もわからないまま…ずっと…。
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