第三章

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「ところで、時の大精霊ってどこにいるの?」 ふと疑問に思って問い掛ける。 フィーネと出会うまで、精霊という存在を目にした事もなかったし、こんな身近に感じることも無かったのだ。どんな所に住んでいるのか、なんていうのはとても想像つかない。 …フィーネの家のように、人のそれとなんら変わりはない感じなのだろうか? いや、でも大精霊っていうくらいだから、もっと大きな神殿とか…はたまた、空の上だったりもする可能性も…。 ん? …待てよ。それだと、俺行けなくね? [今現在はちゃんと陸地に居ると思われるので大丈夫ですよ。ここより暫く北に、別の大陸があります。唯一、ザガンにもトゥル・ロワールにも属さない場所…人の間では、精霊の里と呼ばれているようですが、おそらくそこにいらっしゃるはずなので。水の大精霊様と共に…] 精霊の里…これまた凄い名前が出てきたなと驚く。遥か昔に、精霊達が里をつくったというのは先程フィーネの口から聞いたばかりではあるのだが、現在も尚、それが存在しているとは思いもしなかった。 人に魔力を使うように頼んだのだから、一箇所に留まる必要も無くなった訳だし、勝手に散り散りになったものだとばかり… 「精霊の里、かぁ。本当に実在してるなんて話、人の間では耳にしたことすら無かったよ。なんか恐れ多いね。」 [そうだったんですか。ディル様が知らないとなると、あの時間軸で知る者はいないのかも知れませんね…。まあ、確かに人が足を踏み入れた事など、無いに等しいのですが。] 「…え?」 フィーネの言葉に、思わず固まる。 人が踏み入れた事がない場所に、俺は行こうとしているというのか。ちょっと、待って?それ、本当に大丈夫…? [別の大陸…というか孤島みたいなもので、海を越えなければならない場所にあるのです。そのうえ、人が生活するには少々困難な場所ですから、交易等もありません。この時間軸でも、里の存在を知っている者は少ないと思われますので、人は認知もしていなければ、訪れる機会もないのかもしれませんね。…もし来れたとしても、結局は何も見えずに終わってしまいますし。あ、となると、もしかすれば船の便も…] 「…まさか、ないとか?」 [わざわざあの場所へ行くような物好きな人がいれば、あるいはあるのかもしれませんが…あまり期待はしない方が良いかもしれないですね。] 「うわ、まじか…。そしたら、どうやって向かうの?」 船がないのなら、人が海を渡る方法は他にない。 サイレでは上空を飛ぶ為の道具が何種類か開発されていたのを覚えているが、どれも長距離は向かない上に、ここはアルカで、時間軸も違う。そもそも断壁がある時点で望みは無いに等しいし、人がいない場所に大陸同士を繋ぐ橋なんてものもある訳が無いだろうし… あれ…もしかして、 行く前から辿り着けないフラグじゃ?…そんな事ある? [いえ、大丈夫ですよ。もしなかった場合は、ひとまずこの大陸の最北にある、ヘリバームという村へ向かいます。そこからは海を渡るしか方法がないかとは思われますが、ディル様には道中で、空を飛ぶ為の魔力の使い方をお教えしますので、それを使用し海を渡って頂こうと思っていますから。] にこりと笑うフィーネに、ん?と首を傾げる。 当たり前のように、平然と言ってのけた彼女の言葉を理解するのに数秒…理解するのと同時、驚きに目を見開いた。 「え?待って、なに?魔力で人も空飛べちゃうの?!」 […やはり、ご存知なかったのですね。なんていっても、風ですから。空を飛べるのは風属性の特権なんですよ?と言っても、精霊は属性など関係なく皆飛ぶ事が出来るので差ほど関係はないのですが。] 思わず、「嘘だろ、まじかよ…」と口にして頭を掻いた。 確かに風と言えば自由に飛び回れそうなイメージはあるが、それが人までもが可能であるとは思ってもいなかったのだ。 というか、魔法ではなく魔力で飛ぶっていう事にも驚きだし… 「…全然知らなかったよ。さすが、風属性…」 [ふふ。そう言って頂けて光栄です。出発は…せっかく宿をとったのですから明日にしましょうか。] 少し考える素振りをしてから、提案してきたフィーネに顔を顰める。 「いや、いいよ。時間も限られてるし、まだお昼でしょ?素材売って、ご飯を食べたら少し進もう。…運良く船があったら船で休めるだろうし。」 俺の為である事は一目瞭然だった。確かに全く疲れてないと言えばそれは嘘になるが、決して動けない程では無い。むしろ今休めば、夜に眠れなくなる可能性の方が高いと言える程度には。 全くもう…すぐ人を優先したがるんだから。 […ディル様だから、ですよ。私、誰にでも優しい善人ではありませんので。…今回はお言葉に甘えさせて頂きます。ですが、疲労の色が見え次第、今日の移動は直ぐに終えさせて頂きますからね。] 「分かってる、ちゃんと言うから大丈夫だよ。そしたら、市場の方に戻ろっか。」 ー
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