第三章

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人混みに紛れ、[先程場所を確認しておきました。]と言うフィーネの案内の元、武具屋へと一直線に進む。 市場には俺くらいの子や、もっと小さな子ども達も結構いて、一人で歩いてるにしろあまり悪目立ちはしなさそうだなと安堵した。 [あちらの赤い旗が立っている場所です。]と完璧な案内を遂行してくれたフィーネに心の中でお礼を告げ、「こんにちは。」と武具屋の店主へと挨拶を交わす。 流石はトゥルース港と言ったところか。 俺がいた時間軸ではないにしろ、貿易港と呼ばれているだけあって、武具屋にある道具の種類も豊富だな、と置いてある商品を見渡しつつ、素材の入った袋を店主へと手渡す。 「換金をお願いします。」と伝えると、色々な客層が来る分慣れているからなのか、「はいよ。」と笑顔で引き受けてくれ、特に時間を要する事も無くお金を回収することに成功した。 昨日が昨日だっただけに、色々言われるだろうかと少し身構えていたのだが、ただの杞憂で終わったことにほっとする。 また別の店に寄るのも面倒なので、そのまま旅に必要な必需品を幾つか購入して、店を後にするべく背を向けた。 さてと。 早朝から歩きっ放しだったせいか、だいぶお腹もすいてきている。今日のお昼ご飯は何処にしようかな?などと考えていると、ふとフィーネの姿が傍に無いことに気付き、慌てて辺りを見渡した。 あれ…武具屋に来た時までは一緒だった筈なんだけどな。 一体いつはぐれたんだろうと思いつつも、そんなに遠くには行っていないと判断。だが、流石にこの人混みを探すとなると少々厄介だなと苦笑いを浮かべた。 俺の思考が読み取れるフィーネから何も返答がないということは、届かない距離にいるのか、はたまた何かに集中しているのか…流石にこんな街中で襲われるなんていう可能性はないとは思うのだけれど、何も言わずに居なくなるというのは、少し考えにくいよなと思考を巡らせる。 んー、どうしようかな… まずは試しに呼んでみるべきかと判断し、心の中で「フィーネ?」と名前を呼ぶ。 すると同時に、じっとある一転を興味深そうに見ているフィーネの姿が目に入り、ぴたりと動きを止めた。 …どうやら、彼女が見ているのは女の子達が好きそうな色とりどりのアクセサリー類が並ぶお店らしい。 人から姿が見えないのを良いことに、覗き込むようにしてそれらを目にしている彼女に、こちらの呼び掛けは全く届いていないようで、反応はない。珍しくかなり真剣な様だ。 流石に、男一人であの店に行くのには少し気が引けるが、今回ばかりは致し方あるまいかと腹を括ることにし、足を進める。 …年齢的にも、変な人…には見えないはずだ、多分。 少し緊張しつつお店に近付くと、にこやかに笑う女店主と目が合って、「いらっしゃい。」と迎えてくれた彼女に挨拶を告げ、こちらも笑みを浮かべて返し、フィーネが見ているであろう髪飾りを目に映す。 少し緑ががった綺麗な青色のそれは、確かバレッタと呼ばれる髪を挟んでつけるものだったはずだと記憶を掘り起こしつつ、心の中で問い掛けた。 (…フィーネ。もしかして、それ欲しいの?) [え?あ。ディル様。すいません、もう終えられていたんですね。少し見ていただけなんです。] (ふーん。今回は昨日と違って、特に何も言われずに終わったから早かったんだ。最初から買う物も決まっていたしね。) [なるほど、そうでしたか。では、次は腹ごしらえですね。先程美味しそうな場所を見付けたのでそこに向かいましょう!] [こちらです。]と再び案内を開始しようと動いたフィーネを横目に、そっと手を伸ばしアクセサリー屋の店主へ口を開く。 「すみません、これ頂けますか。」 「おやおや、プレゼントかい?」 「はい。一緒にいる連れに。」 「そうかい、そうかい。喜んで貰えるといいねぇ。」 「…はい。きっと喜んでくれると思います。」 挨拶を交わした時よりも、一層笑みを深くした女店主にぺこりと頭を下げてお礼を告げ、髪飾りを受け取った。 手元で太陽の光を反射して光るそれは、近くで見るとより一層綺麗で、きっと似合うだろうなと頬を緩める。 [ディル様、それ…] 後を着いて来ていない俺に気付いたのだろう。後ろを振り返ったフィーネがこちらを見ていて、ぽつりと零した。 (言ったでしょ?欲しいものはちゃんと教えてねって。) […私、そんなに物欲しそうな顔してました?] 首を傾げて考えるように問い掛けてくる彼女に、思わずくすりと笑う。 (物欲しそうって訳では無かったけど、あんなひとつに集中して意識を向けるフィーネを見たのは初めてだったから、気に入ったのかなぁと思って。) […なるほど。えと、ありがとうございます。ディル様。] (ん。後で、人がいないところで渡すね。) ー (そういえば、前から少し気になっていたんだけど、精霊が見えない人から精霊が持っている物って、どんな風に見えるの?服とかは特に見えてないみたいだけど…) [えっと、身に付けている物は自然と見えなくなりますが、持ち歩いている物は見えるようですよ。結構基準は曖昧なんですけどね。例えば…そうですね。私が武器を持って戦闘すると、大鎌が独りでに動いているように見えると言った具合です。] (え、何それ。めちゃくちゃ怖いじゃん…もうホラーだよ。) [ふふっ。ですが、これでディル様もモノが勝手に動いている様を目にした際は、精霊のせいだと思えるようになりますね。] (…真っ先にその答えに行き着くかどうかは、別だけどね…) ー
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