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かなり高い位置にいるからか、下を歩いていた時にはあまり感じられなかった風が頬を掠め、その心地良さに目を閉じる。
耳を澄ませば、遠くで人々の声と波の音が聞こえて、少しばかり贅沢なランチだなと笑みを零した。
…食べているのは、ただのハンバーガーだけど。
だが、少し冷めてしまったものの、その味は想像以上で、口いっぱいに肉のジューシーな旨味が広がり、挟まれているさっぱりとした野菜とのバランスが取れていて、ほうと感心する。
その上、結構な食べ応えがあるそれは、見た目に反して意外とボリューミーなものだったらしく、さすが店内に若者が多かっただけあるなぁと素直に賞賛した。
一方、俺の隣に座り、大きな口を開けてハンバーガーへとかぶりついているフィーネは、予想通りの幸せそうな表情を浮かべて、食事を楽しんでいるようで、やはり買って良かったなと安堵の息を漏らす。
[…そんなに見られると、少々お恥ずかしいのですが…]
「あ、そう?ごめんごめん。やっぱり随分美味しそうに食べるよなって思ってさ。」
[…ディル様はあまり沢山は食べない方なんですね。]
「ん?ああ、そうかな。少食ってほどでは無いと思うけど、まあ大食いでは無いのは間違いないかもね。」
[…沢山食べないと大きくなれませんよ?]
いきなり痛いところを付いて来たフィーネに苦笑いを浮かべ、そういえば昔はよく母さんと父さんにも言われたっけなぁと思い出した。
今となっては二人はその役を降り、少しおませになってきたルシィが頬を膨らませて言ってくるのだけれど、それが何ともまあ、愛らしいことこの上ないのなんのって…。結局、上手くかわして追加を食べずに終わるのが殆どなのだけれど。
「…努力はします。」
[では、次にこういうのを食べる際は二つずつ注文することにしましょうね。]
清々しいほど笑顔な彼女に、それが目的か!と思わず心の中で突っ込んで、やれやれと肩を竦めた。
素直に言えば良いのに、とは思ったが、これまた口に出すとやばいので。…いや、フィーネが相手なら思う時点でもう既に駄目なのだけれど、「分かったよ。」とだけを言葉にして返した。
ー
昼食を終え、少しの休憩を挟んだ後、俺たちは再び舟券売り場へと向かう為に足を進める。
先程、フィーネから聞いたのだが、精霊達が住むと言われている孤島の名は、どうやら人の間ではセイカの地とも呼ばれているらしい。
精霊の里やらセイカの地やら、随分と神聖な場所っぽい名前を付けたもんだなぁと苦笑いを零す。
きっと精霊自体は、その神様などとは全くの別物だろうに。
先を行くフィーネの後に続き、船の出港時刻が書かれている時刻表までの道のりを歩いて、それを目に映す。
指で辿り、“セイカの地“の文字を探すが、やはりと言うべきか、そのような名前の便は何処にも書かれてはいなかった。もちろん精霊の里行き、なんて言うのも。
「だよなぁ…」と小声で呟いて、ヘリバームまで徒歩で向かうことが確定した事に、少しだけ落胆する。
…そりゃ、出来ることなら楽をしたいだろう、誰でも。
初めからあまり期待はしていなかったのだが、こう、つくづく自分に運が無いことを知って、たまには俺にも微笑んでくれよ神様…と、いるかいないかも分からない相手に心の中で訴えたのだった。
[頑張るしか無いようですね…すいません。私が移動系の魔法を持っていれば良かったのですが…]
(いや、そしたら俺が空飛べなくなっちゃうじゃん。大丈夫だよ、ちゃんとこうなるだろうってのは予想してたからさ。それに楽しみでもあるんだから、自分で空を飛ぶっていうの。)
[…では、気合を入れてお教えしますね。もし落ちたとしても、私がちゃんと抱えますから。]
(…それは随分とまあ頼もしいことで。極力落ちないように、努めさせて頂きます…。)
「ねー、そこの坊や。なんか探してるっぽいけど、どうかしたの?」
フィーネと会話中、ふいに近くで声が聞こえ、反射的に後ろを振り返る。そこには船員の格好した女性がいて、不思議そうにこちらを見ていた。
どうやら、俺に掛けている言葉のようで間違いはないらしい。
「あ、ごめんね。急に。ずっとこれ見て黙ってるから、なんかあったのかなって思ってサ。」
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