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そもそも、ローガス社は何をしていたのだろう。
父は実験…と言っていた。それは本当に機械の?仮に機械の試作実験だとして、なぜ離れている村の人々が巻き込まれたのか。
どう考えてもおかしい気がする。となると、思い当たるのは一つだ。
「実験をしていたのは機械では、ない…?」そう呟いたと、ほぼ同時。
ガシャンっと、大きい何かが倒れたような、けたたましい音が響いた。どうやら音の発信源は、この路地を曲がった少し先のようである。ただ事ではない音に、誰かが何かに引っかかったのかもしれないと、すぐさま向かうことにした。
狭い路地を曲がり、暗がりに目を凝らす。ドラム缶やら鉄パイプが重なって倒れているのが見えて、慌てて近寄り声を掛けた。
「大丈夫ですか?!」
人の姿は見えないが、アスファルトに残る血痕に、間違いなく人が居ると判断。この中に収まるくらいだから、子供だろうか…?さっと血の気が引く。無事でいてくれよ…
「今、避けますから」と一声かけて、急いでパイプを避け始めた。
少しして、見えた姿に息を呑む。
…人じゃ、ない…?
身体を血に染め倒れていたのは、人より何倍も小さくて背中に羽が光る人の形をした何かだった。
[…うぅ…]
聞こえた呻き声に、はっとする。今は考えてる場合じゃない。
病院…は、なしだろう。得体の知れないこの子を連れて行くのは危険すぎるし、何より医者が治せる確証がない。
簡単な治癒魔法は自分でも使えるが、こんないつ人目につくか分からないところで魔法は無理だと判断。さすがにリスクが高過ぎるし、ここまでの傷を完全に治すことは、今の俺には出来ない。
家に行けば、母さんが…
「…少し我慢してくれ。安全な場所へ連れていくから」
羽織っていたジャケットを脱ぎ、小さなそれを両手で抱えて、優しく包む。明らかに、鉄パイプで下敷きになって出来た傷ではないものが目に入り、思わず皺を寄せた。
何か刃物の様なもので付けられた切り傷…
「とりあえず、ハイレールに。」
あまり、人目につかない方が良いだろうと判断。ハイレール乗り場のギリギリのところまでは路地を使うべきかと脚を進めた。
だが、急ぎたい思いとは裏腹に、再び脚を止めることになる。
路地を曲がってすぐ現れた人影。三人の大柄な男はニヤリと笑って、そのうちの一人が口にした。
「よぅ。あんちゃん。それな、ワイらのもんなんじゃ。おいてってくれるか?」
ー
ったく、なんだってんだ今日は!!厄日かよ…
心の中で叫びながら、必死で駆ける。追ってくる足音を耳に舌打ちをした。
明らかに、この子に傷を付けたのはあの三人だった。いくら路地裏とは言え、片手に拳銃やナイフを持ち歩いているのは不審過ぎるのだ。はい、そうですか。なんて渡せる訳がない。
応戦出来なくもないが、今優先すべきはこの子の治療。あいつらに構っている暇などなかった。今の俺には走るという選択肢しか存在しない。
それにしても、「しつっこいなっ…」
男達はまるで諦める様子はなかった。というか、怒鳴り声をあげて必死の形相で追ってきている。一体なんなんだよと思うものの、何やら良くない方向に足を突っ込んでいる事だけは確かだった。
いっその事大通りに出るか?いや、でももし仮に奴らが諦めずに着いて来たとしたら…それこそ大問題だ。街中がパニックになりかねない。
「…くそっ」
ー
「…っはぁ。ようやく追い詰めたでぇ…」
「よくもこんな面倒なことさせてくれたな?」
「ッ覚悟は出来てんだろうな、ガキ。」
…やられた。
どうやら気付かぬうちに一人が別のルートを行き、まんまと挟み込まれていたようだ。
前に一人。後ろに二人…。逃げ場は、無い。
じりじりと近付く距離。もう、腹を括るしかないか。
昨日願ったばっかりだったのに。本当についてない…
怪我人を両手から片手持ちに変え、すうっと息を吸う。チャンスは一回限り。気付かれる前に撃たなきゃ詰みだ。
対人相手の実戦は初めてなんだよなぁと思いつつ、吸い込んだ息を吐いた。
さて、と。
目を閉じ、腰のホルスターに手を掛ける。その数秒後、ガウンッと銃声が辺りに響いた。
「なっ?!」
「ッ…追え!逃がすな!!」
狙ったのは、前方にいる一人でいる方の右膝。撃った直後に駆け出していた俺は、倒れ込んだ男とすれ違いざま、横目に言う。
「ごめんね、おじさん」
「!ふざけんなっ、クソガキがぁ!」
俺は至って真面目だけどね。と心の中で返し、ホルスターへと銃を戻した。
“早撃ち“…今回は上手くいったものの、二回目は無いだろう。
残る相手は二人… 逃げ切れる、か…?
[…た]
「え?」
思考中、ふいに聞こえた声に驚き、視線を落とす。先程まで閉じられていた目が開いていて、綺麗な翡翠色の瞳がこちらを見ていた。
[…みつけ、まし…た]
何を、と言いかけて止まる。
突如輝き始めた小さな羽の子。どんどん視界が白で覆われて、何も見えなくなった時、ふっと感じたのは浮遊感だった。
は?いや、なに?
訳も分からないまま、どすっと鈍い音を立てて落ちる。
「痛てぇ…」
ついた尻もちに、何が起こったんだと辺りを見渡した。
「…」
人は、本気で驚いた時には声が出ないと言う。今がまさにそれだった。
「…どういうこと?」
目に映るは、先程までいた路地の光景ではない。というか、外ですらない。まるで誰かが暮らしていた家…のような場所。
イスにテーブル…キッチンまで。え、まじで、どこ?
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