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「ねぇ、最近巷で流行ってる噂知ってる? 」
ある日の昼休み。私の向かいの席に座って美味しそうにサンドイッチを頬張る彼女は目に好奇心の光を湛えて言った。彼女の名前は柊 美帆。同じ部署に配属された唯一の同僚で、食堂のランチを一緒にするのはいつもの事だ。それから少しオカルトチックなことが好きな彼女はよく私にこういう話をしてくる。
「またオカルト? 私そういうのよくわかんないから」
「もー、ちーちゃんは釣れないなぁ。最近出るんだよ! 」
ちーちゃん、とは私のことだ。片平 ちづる、という名前から"ちーちゃん"というありきたりなニックネームが着くのもまぁ自然な流れだろう。ただ、出会った初日にそう呼んできたのは美帆ぐらいだが。
「出るって何が? 」
「吸血鬼、だよ! 」
「…精神科、行く? なんなら連れていこうか? 」
あまりにもファンタジーな話に私は思わず美帆に哀れみの目を向ける。すると案の定美帆は可愛らしく頬を膨らませてぷりぷり怒り出した。
「もう、ちーちゃんてば! ほんとなんだって! 」
「ふーん」
「課長の奥さんも吸血鬼にやられたんじゃないかって噂があるんだから」
「課長、の? 」
「そそ、今貧血で倒れてるとか。首筋には噛まれたあとがあったとか」
「…へー」
「どうしたの? 」
「ううん、なんでもない。仕事戻ろうか」
私は素早く席を立ち、食べ終わって空になった食器の載ったお盆を返却しに行く。課長の話はしたくなかった。
後から慌てて美帆が私についてきた。若干置いてく形になったのは申し訳なかったけど、あれ以上美帆に課長の話をされなくてほっとした。
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