憑かず離れず

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僕んちには、幽霊が住んでいる。 白いワンピースを着た、銀髪の少女だ。 幽霊は、部屋のすみの大きな鏡の中にいて、時々こちらをのぞいている。 普段はお互いあまり気にしない。僕はいつもゲームをしているし、幽霊は長い髪の毛をいじって遊んでいる。 たまに、部屋のランプがちかちかするときがあって、そんなときは鏡の前にそっとリンゴを置いたりする。リンゴは次の日になるとなくなっていて、そうするとランプはなおるんだ。 ある日、僕にガールフレンドができた。 自分で言うのもなんだけど、ラブラブだ。 毎朝、おはようのメール送って、毎晩寝るまで電話で話す。会えるときはいつでも彼女のところに飛んでいって、出来る限りの時間を彼女と過ごす。僕は全てを彼女にささげた。 だけどある時、ガールフレンドが急に冷たくなった。 「しばらく会いたくない。」 そう告げられた僕は、悲しみに暮れて帰宅した。 鏡を見ると、打ちひしがれた自分の顔が映っていた。 鏡の中に、幽霊はいない。 そういえば、幽霊の存在もずいぶんと忘れてしまっていたようだ。 「おい、幽霊?」 初めて彼女に呼びかけて見たけれど、返事はなかった。 とりあえず僕は、鏡の前にとびきり甘いドーナツを置いた。 次の日、ドーナツはなくなっていて、再び幽霊が姿を現した。 鏡の中でご機嫌に過ごす幽霊を、僕はしばらく眺めて過ごした。 ある時、僕はうっかり鏡を倒して、粉々に壊してしまった。 僕は、慌てて新しい鏡を買った。 なんだか急に不安になって、僕はあの幽霊に会いたくてたまらなくなった。 鏡の前にリンゴを置いたり、甘いドーナツや綺麗なマカロンを置いた。 呼んだり叩いたりいろいろしたけれど、彼女はいっこうに現れなかった。 今度は幽霊のことで頭がいっぱいになって、僕はガールフレンドのことを少し忘れかけていた。 不思議なもので、どうでもよくなってきた頃に彼女からまた連絡が来るようになった。 僕はガールフレンドと仲直りした。 僕とガールフレンドは、結婚した。 先日、一人目の子どもも産まれたところだ。 幸せだよ。 あの時買いなおした鏡は、今も使っている。 幽霊はどうなったかって? 何のことはない、幽霊は忘れた頃にまたすぐ姿を現した。 銀髪のあの子は、今も時々こちらをのぞいているよ。 幽霊なのに僕にとり憑くこともなく、憑かず離れずの関係を続けている。 彼女は、身をもって僕に大切なことを教えてくれたようだ。 人間にも幽霊にも、なんとなーくうまくいく、距離感があることを。
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