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第一話 いつもの光景
その家は、少年が一人、妹が一人、そして両親がいるという、よくある四人一家だった。
兄である少年の名はエディ、妹はエイミー、父はグレアム、母はベラといった。彼らは馬を飼っていた。一頭の馬だ。
黒色ながら、光を反射して銀色の毛も混じっているように見える。とても美しいその馬を、エディも他の家族も気に入っていた。
馬の名前は、ジャック。名付けたのはエディだった。
「ジャック、おはよう。調子はどう?」
ジャックは馬だ、人間の言葉は話さない。それでも、エディが来たらそちらのほうへ鼻先を向けるし、おとなしく触られる。それがいつものことだった。
「今日も元気そうだね、良かった」
エディはジャックの顔を優しくなでると、安心したように息をついた。
彼は金髪碧眼の分かりやすい成りをしている。妹のエイミーもまた金髪碧眼で、違うことといえば前髪の形と後ろ髪の長さくらいだ。
「お兄ちゃん、あたしもジャックなでたい!」
「エイミー。新聞は家の中に持って行った?」
「うん!」
「じゃあ、おいで。お兄ちゃんがおんぶするから」
明るく笑うエイミーは、エディの言うとおりにかがんだ彼の背中に乗る。よっ、という小さな掛け声とともに立ち上がったエディは、後ろにいるエイミーの手がジャックに届くように左側を彼に近づけた。
「ジャックー、おはよー」
言いながら優しくポンポンとたたく。そして、二度三度と手を動かしてさする。ジャックは暴れることなく、されるがままだ。しかし、右後ろ脚で一回地面を蹴る。
「あ、ごはんだね。大丈夫、忘れてないから」
催促のそれだった。エディは言いながら、エイミーを地面に降ろす。
「エイミー、先に朝食にしてて」
「分かった! ジャック、またね」
ジャックにも挨拶をしたエイミーは手を軽く横にふってサヨナラをすると、家の方へと戻っていく。
庭先にある馬小屋は、小屋としては小さいながらも立派なものだった。
「今日は木曜日だよ、ジャック。学校が早く終わる日。帰ってきたら散歩に行こう」
そう声をかければ、ジャックは頷くように、首もとい頭を一回、縦にふった。
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