第二話 散歩

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 カポカポ、という蹄鉄が地面を踏む音を聞きながら、ジャックの背中に乗って湖畔を歩く。 「あれ?」  何かが遠目に見えたエディはジャックを止まらせた。 「なんだろう……人かな」  自分達以外に他の誰かがいてもおかしくはないが、夕方だ。エディらのように散歩でもなければ、この時間にここに来る人はいないだろう。 「……まぁいっか。ジャック、そろそろ帰ろうか」  エディに声をかけられたジャックは、動こうとしない。両足で脇を刺激しても、止まったままだ。 「……ジャック? どうしたの?」  たてがみの下、首部分を優しくなでるが、ジャックは頭を動かさずまっすぐ前を見つめている。 「困ったな。ジャック〜、帰りたくないのかい?」  ジャックはそうだといいたいのか、エディの方を向くように左側へ頭を動かす。ようやく動いたとはいっても、帰りたくないようだ。彼は息をつくと降りた。 「分かった。じゃあ少しだけこのへんで遊ぼうか」  よしよし、と顔をなでるとエディは手綱を握り直した。  それから数十分は、共に歩いたり花を見たりして過ごした。すれ違うおじいさんや家族連れにも挨拶をした。  しかし。 「エイミーには可愛い花が似合うから……これもいいな」  エディがエイミーにおみやげとしてあげようとした花を摘み、一段落ついて顔を上げるとジャックは姿を消していた。 「あれ? ……ジャック? ジャック!?」  黒い馬は周囲にいない。どうしよう、と焦ったエディはとりあえず道のある方へ歩く。 「ジャックー! ジャックー!!」  夕暮れの空にエディの声が響く。ジャックの面影はなく、花を手にしていたエディはついに立ち止まってしまった。 「ジャック……」  こんなことならジャックから降りなければよかったし、花も摘まなければよかった。目を離さなければ、こうはならなかった。  そんな自己嫌悪に陥っていると、カポカポと蹄鉄の音が小さく聞こえた。  迷わず顔を上げると、ジャックが湖近くを歩いているのが見えた。エディの方へ歩いてきている。 「ジャック! あぁよかった」  エディは駆け出して、ジャックへと抱きつくように首元に顔をよせた。 「ん? ジャック……水浴びでもしてた?」  ジャックの毛に水滴がついていた。湿っている、とまではいわないが、濡れているなとわかる程度に。 「湖で遊んでたの? もう、僕から離れちゃダメだよ。今度こそお家に帰るからね」  ポンポン、と首を軽くたたくと、花をポケットに入れてジャックの背に乗る。不思議と、エディが座った場所は濡れていなかった。
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