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カポカポ、という蹄鉄が地面を踏む音を聞きながら、ジャックの背中に乗って湖畔を歩く。
「あれ?」
何かが遠目に見えたエディはジャックを止まらせた。
「なんだろう……人かな」
自分達以外に他の誰かがいてもおかしくはないが、夕方だ。エディらのように散歩でもなければ、この時間にここに来る人はいないだろう。
「……まぁいっか。ジャック、そろそろ帰ろうか」
エディに声をかけられたジャックは、動こうとしない。両足で脇を刺激しても、止まったままだ。
「……ジャック? どうしたの?」
たてがみの下、首部分を優しくなでるが、ジャックは頭を動かさずまっすぐ前を見つめている。
「困ったな。ジャック〜、帰りたくないのかい?」
ジャックはそうだといいたいのか、エディの方を向くように左側へ頭を動かす。ようやく動いたとはいっても、帰りたくないようだ。彼は息をつくと降りた。
「分かった。じゃあ少しだけこのへんで遊ぼうか」
よしよし、と顔をなでるとエディは手綱を握り直した。
それから数十分は、共に歩いたり花を見たりして過ごした。すれ違うおじいさんや家族連れにも挨拶をした。
しかし。
「エイミーには可愛い花が似合うから……これもいいな」
エディがエイミーにおみやげとしてあげようとした花を摘み、一段落ついて顔を上げるとジャックは姿を消していた。
「あれ? ……ジャック? ジャック!?」
黒い馬は周囲にいない。どうしよう、と焦ったエディはとりあえず道のある方へ歩く。
「ジャックー! ジャックー!!」
夕暮れの空にエディの声が響く。ジャックの面影はなく、花を手にしていたエディはついに立ち止まってしまった。
「ジャック……」
こんなことならジャックから降りなければよかったし、花も摘まなければよかった。目を離さなければ、こうはならなかった。
そんな自己嫌悪に陥っていると、カポカポと蹄鉄の音が小さく聞こえた。
迷わず顔を上げると、ジャックが湖近くを歩いているのが見えた。エディの方へ歩いてきている。
「ジャック! あぁよかった」
エディは駆け出して、ジャックへと抱きつくように首元に顔をよせた。
「ん? ジャック……水浴びでもしてた?」
ジャックの毛に水滴がついていた。湿っている、とまではいわないが、濡れているなとわかる程度に。
「湖で遊んでたの? もう、僕から離れちゃダメだよ。今度こそお家に帰るからね」
ポンポン、と首を軽くたたくと、花をポケットに入れてジャックの背に乗る。不思議と、エディが座った場所は濡れていなかった。
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