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湖のほとりに着き、エディはジャックから降りる。
「お母さんはああ言ってたけど、ジャックがいるし平気だよね」
そういって手綱をひっぱり、ジャックと並んで歩く。
「昨日はお花を摘んだから、今日は何しようか」
そう話しかけたとき、木の根本に帽子があるのを見つけた。藍色の落ち着いた色合いで、黒いリボンのようなものが付いている。男性物のようだ。
近づいたエディは、ひょい、と持ち上げる。
「帽子? 落とし物かなぁ」
彼はじっ、と見つめていたが、ふいに横にいるジャックを見た。
「これ、昨日すれ違ったおじいさんのだよね?」
ジャックが分かるように、と目の前へ帽子を持っていきながら尋ねる。しかし馬のジャックは聞いていないかのように地面に口元を近づけた。生えた草のほうに興味があるらしい。
「お母さんにいって、警察に届けなきゃね」
昨日、散歩のときにすれ違ったおじいさんがかぶっていた帽子に違いなかった。昨日の今日なのだから、すぐ忘れるということもない。それに、なんだか高級そうに感じられた。つまりは、おじいさんの大切なものなのだろうと思われた。
「どうしたの? ジャック」
それまで草を食べていたジャックが、エディが持っている帽子に鼻先を突っ込んだ。
「やっぱり帽子が気になる? って、わぁっ!」
ジャックは、そのままグイッと空中に帽子を放り投げた。エディは慌てて追いかける。
「お、っと! もう、だめだよジャック。そんな意地悪するならもう帰ろう」
帽子をなんとかキャッチしたエディは、ジャックにしゃがむように背中に手を置く。
いつものように足を折ったジャックの背中に乗ったエディだったが、馬の彼が立ち上がったとき、手を置いたときに毛の違和感に気がついた。
サラサラで触り心地のいい毛が皮膚に少しひっかかる感触に変わっている。
―気のせいかな。
そう思ったエディは手綱を握り、湖のほうを向いているため方向転換をしようと引っ張った。しかし、ジャックはそのまま湖のほうへ向かって歩いていく。
「え? ちょっと、ジャック、家はあっちだよ」
エディが言うが、賢いはずのジャックはそのまま湖に入っていった。エディは慌てる。
―そうだ、降りればいいんだ!
ひらめいた彼は、手綱を離して泳ごうとした。しかし、振り返って馬の尻尾を見たエディは目を見開いた。
黒い尾ではなく、灰色に近い尾びれがあったのだから。
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