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第四話(最終話) ジャックという馬
「ただいま、エディ。……エディ?」
帰宅したベラは、エイミーを椅子に座らせながら部屋の中へ声をかける。エディの返事はない。
テーブルの上にはノートが広がっており、課題をしていたらしい形跡がある。
「ジャックはいなかったし、鍵もかかってたから散歩だと思ってたけれど……」
そうなると、散歩に行ってから帰ってきていないことになる。もう夜だというのに。
「ママ、おなかすいた」
「そうね、病院で疲れたものね。本でも読んで待っててちょうだい」
着替えて夕飯の支度をしようとしていたところで、外で馬のいななきが聞こえた。
「エディ!」
帰ってきたんだわ、そう思って扉を開くとそこにいたのはジャックだけだった。
「ジャック……エディは? 散歩に行ったのでしょう。どこに行ったの?」
そう聞くが、ジャックは答えを知っているのかいないのか、まばたきをするだけだ。
「困ったわ……やっぱり何かあったのかしら」
ベラはジャックへ近寄る。そっ、と頭をなでた。どこも違和感はない。どこも。
「パパに連絡いれなきゃ。あと警察も。ジャックは小屋へ戻りましょうね」
彼女はそうやってジャックを小屋へと連れて入る。
「ジャックはエディが欲しがったから買ったんだけど……お世話役のはずなのに、エディったらどうしたのかしら」
ジャックは黒い馬だ。グレアム家の、四人家族の飼っている馬。
「ママ、この絵はなに? これ妖怪なの?」
家の中へ戻ったベラは、エイミーにいわれて絵本をのぞきこむ。
「ああ、ケルピーね」
「ケルピーって、なに?」
「馬のような姿をしているでしょ? これで油断させて、背中に人をのせて水の中へ引きずり込んで食べちゃうの。ほら、尾が魚みたいでしょ」
「えっ、こわいー!」
「分かったらエイミーも湖の近くでは遊ばないこと。ケルピーに食べられちゃうからね」
ベラはそう言いながら電話をとった。グレアムへ電話をするためだ。
ジャックのお腹は、食事後でもないのに少しだけ膨らんでいた。
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