0人が本棚に入れています
本棚に追加
青い色が好きでした。
いつまでも色あせることのなく、どこまでも広がる大空の様な青が。
美しいそれを手に入れたいと思ったのは、だから自然なことだったのです。
絵具ではなく、本物の真っ青な空の色が欲しかった。
大人しくじっとしているなんて出来ませんでした。
からっぽな私が唯一欲したものだったから。
きっと、手に入れてみせる。
苦悩の末、そう覚悟した私は一人家を飛び出しました。
けれど、空なんてどう手に入れたら良いのか子供の私が知っている訳ありません。
子供なことが悔しい。
探し物はいつまでたっても見つかりません。
しかしそんな時、声をかけてくれた人がいました。
好きな色は何だい? と、その人は問いかけます。
宣言するように迷いなく私は、青だと答えました。
空の青が欲しいのだと。
ただ、空への行き方が分からないのだと、相談するとその人は笑いました。
近づくには空は少し遠すぎる。
月までの行き方なら教えてあげる。
手を差し伸ながらその人は笑いました。
とってもいい提案だ、と私は思いました。
何故、断ることができるでしょう? 私はその人の手を握ります。
西へ行きなさい。
沼の底に答えはある。
眠るような、穏やかな表情でその人はそう教えてくれます。
望むものを手に入れるため、私は迷わず沼の底を目指しました。
始めは苦しく、真っ暗な沼の底でしたが深く深く沈んでいくと、次第にその苦しみもなくなって行きました。
日の光が見える頃には、私はここが沼の底だということを忘れていました。
不思議なことが起こったのはその光が一段と強く輝いた時です。
変なことに、いつの間にか私は月にたどり着いていました。
星々が真っ暗な空で思い思いの色に輝いています。
真っ黒に浮かぶ、赤、黄色、オレンジ、緑に、紫。
みんな、どの星もとてもきれいです。
無限に広がる星の天井に、けれど青だけはどこにもありませんでした。
目を凝らしても、綺麗な星々の中に青い光はありません。
もしかしてと思ったのに、私は落胆してしまいます。
やはり、ここでも青は手に入れることが出来ませんでした。
雪のように冷たい月面を私は歩きます。
ようやく、月の裏側まで来た時のことでした。
落胆しながらも顔を上げた私は、ついにそれを見つけました。
凛と輝く真っ青な星。
ルビーやサファイアなんかよりもずっと大きいその星を、私は以前から知っていました。
レンズ越しに見るより、実物はずっと綺麗だったけど。
労苦を少惜しまず月までやって来たのに、何と滑稽な話でしょう。
私はずっとその青と共にいたのだと、今更になって気付きました。
大きな大きなその星を、今度は見失わないように、私は大切に自分の手で包みます。
「ん」
最初のコメントを投稿しよう!