嵐の前の……

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 そういえば、彼がやたらとお互いを下の名前で呼ぼうとしてきたのって、何か理由があるのかな?と思ってから、「私が考えることじゃない」と頭を軽く振ってその疑問を追い払う。 「鳥飼(とりかい)先生は……」  不意に名前を呼ばれて逢地(おおち)先生を見つめたら 「霧島先生に何て呼ばれていらっしゃるの?」  って聞かれて。 「わ、私は……小さい頃からずっと“音芽(おとめ)”って呼ばれています。本当はこの名前、なくてかなり恥ずかしいんですけど……不思議と彼に呼ばれるのは嫌いじゃなくて……」    無意識にふんわりと夢見心地な声音でそう言ってしまってから、急に恥ずかしくなって 「あっ。でも、すぐに“バカ音芽”って言ってくるんですけどね」  誤魔化すようにそう告げた。  逢地(おおち)先生はそんな私に優しく笑いかけていらして 「鳥飼先生の下のお名前、私大好きですよ? ね? 私も2人きりの時はオトちゃん、とか呼ばせていただいても?」  って上目遣いで聞かれて、思わずドキドキしてしまった。  わー、何この女子力! 見習わなくちゃ!  逢地(おおち)先生の上目遣いに妙にときめきまくりの私はしどろもどろで答える。 「あ、も、もちろんですっ! じゃ……じゃあ私も……逢地(おおち)先生のこと、その、な……なっちゃんって呼ばせていただいてもいい……です、か?」  鶴見先生と同じ、は避けたい。  そう思ってから、逢地(おおち)先生が「音芽ちゃん」を避けたのは、温和(はるまさ)への配慮かな?とふと思った。  逢地(おおち)先生は 「なっちゃん! きゃー、嬉しい! これからも時々こんな風にお話ししましょうね、オトちゃん!」  そう言ってにっこり微笑んだ。  やっぱり逢地(おおち)先生――いや、なっちゃん?はすごく可愛いなって思うの。
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