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「音芽のくせに、ずいぶん青春してんじゃん」
温和にしがみついていて見えなかった。
「カナ、兄……」
情けなくも涙目で温和に抱きしめられているのが急に恥ずかしくなって、私は自立しようと身じろいだ。
危険、危険。カナ兄に弱ってるところなんて見せたらとうぶん揶揄いのネタにされるっ!
そう思うのに、温和が腕の力を緩めてくれなくて。
「ハルが面白いモン見れるから非番なら来いっていうから来てみたけど……久々にお前の泣き顔見られて兄ちゃん大満足だわー♥」
言葉尻にいちいちハートマークや音符が見える気がして、私はゾッとする。
「は、温和……腕」
一人で立てるから大丈夫よ?と小声で言ってみるけれど温和は完全無視みたいで。
「音芽、しばらくそのまま大人しく抱かれといてやれって。でないとしょっちゅう泣きつかれて俺が困る」
ククッと小さく喉を鳴らすように笑いをこらえながらカナ兄が言うのへ、温和が「奏芽黙れ」と低く言って睨みつける。
温和がカナ兄に泣きつく?
そういえばいつだったかカナ兄から電話がかかってきたとき、温和の様子がおかしかったのをふと思い出した。
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