3102人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁそれはそうと、だ。そこの……えっと大我ちゃん、だっけ?」
カナ兄が温和の不機嫌さなんてお構いなしに鶴見先生の車の助手席に腰掛ける。
「どうも、はじめましてぇー。うちの音芽がいつもお世話になっておりますぅ〜。わたくし、音芽の兄の鳥飼奏芽と申します」
言って、にこやかな笑顔で鶴見先生に手を差し出すカナ兄を、私も温和も無言でじっと見守った。
丁寧なんだかおネエ言葉なんだか分からない変な口調に、嫌な予感しかしない。こういう時のカナ兄はニコニコした表情とは裏腹に、怒っていることが多いから。
でもカナ兄のことを知らない人は、そんなの分からないから思わず気を緩めちゃうんだよね。
ほら、今の鶴見先生みたいに。
「あ、は、はじめまして。鶴見大我です。妹さんとはプライベートでも親しくさせていただいています」
とか、地雷にしか思えないっ。
鶴見先生の言葉に、温和が前に出そうになったのを、カナ兄が片手を上げて制すると、差し出した自分の手を握ってきた鶴見先生の手をギュッと力任せに握り返したのが分かった。
「痛っ」
鶴見先生が顔をしかめて手を引こうとするのを、カナ兄はにこやかな笑顔を浮かべたまま、許さない。
「大我ちゃん。プライベートで親しくっていうのさぁー、うちの妹も合意の上での発言?」
低めた声でカナ兄がそう言って、握ったままの手をグイッと自分の方へ引き寄せる。
そうしてそのまま鶴見先生の胸ぐらを掴んで――。
「えっ! ちょっ!」
思わず私、びっくりして声を出してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!