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だって……だって……カナ兄、鶴見先生に……その、き、き、キスをっ!
しかも軽いのじゃなくてどう考えても濃厚なやつっ!
それを見た途端、頭の奥がちりっと痛んで、ほんの少しふらついた私は、慌てて温和にしがみついた。
温和はそんな私の背中を、何も言わずに優しくぽんぽん、と撫でてくれる。
それだけでスッと楽になるようで――。
カナ兄は、グッと鶴見先生の頭を押さえて逃さないようにして結構執拗なキスをした後、唇を離したと同時に口元を片手で拭った。
相手の気持ちを無視したキス。
無理矢理の抱擁。
どちらもされた方はたまらない。
私は温和のおかげでたまたま抱きしめられるのみで回避できたけれど、そうでない未来があったかもしれないわけで。
考えただけで恐怖に足がすくみそうになった。
温和がいてくれなかったら絶対私、へたり込んでしまってた。
「嫌がる女を力づくでものにしようとするとか、有り得ねぇから。もしまたうちの音芽に同じようなことをしようとしたら……そのときは――」
カナ兄が鶴見先生の耳元に唇を寄せて何事かをささやいて。
途端、鶴見先生が引きつった顔をして、青ざめたのが分かった。
「じゃあね、そういうことなんでよろしくね〜。――俺さ、マジでどっちでもいける口だからぁ〜♪」
音芽を泣かせていいのは兄貴の特権を持った俺たちだけなんだよ、と恐ろしいことをつぶやきながら、カナ兄が助手席から立ち上がる。
そこでふと思い出したようにもう一度車内を覗き込んで、
「そうそう。俺たち予定通りパンケーキ食べに行くんだけど、大我ちゃん、どうする?」
問いかけるカナ兄の満面の笑みに、鶴見先生が、小さく「ヒッ」と悲鳴を上げて……慌てたように「ぼっ、僕はちょっと体調が悪くなったので失礼しますっ」と言った。
「あらぁ〜、残念っ。一緒のお皿をつついたらもっと仲良くなれると思ったのにぃ〜」
白々しくカナ兄が言うのへ、鶴見先生が慌てたように「すみませんっ!」と謝罪した。
その反応に、カナ兄は満足そうにニヤッと笑うと「じゃあ気をつけて帰ってね」とドアをしめた。
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