*後悔したくない

13/18
前へ
/698ページ
次へ
 近づいてくる温和(はるまさ)を、彼の胸に両手をついて必死で押し戻そうとしてみたけれど、全然止められなくて。  そればかりか、至近距離で聞いたことのないような低い声で「とりあえず黙って目ぇつぶれよ」って囁かれて、私は全身から力が抜けてしまった。  温和(はるまさ)からの抗い難い命令口調に、思わず従いそうになってから、違う、そうじゃなくて!と思い直す。  それなのに……。  温和(はるまさ)の前髪がおでこをくすぐった瞬間、私はそのつもりはなかったのに、思わずギュッと目をつぶってしまった。  途端、唇に柔らかな感触が押し当てられて――。  最初は探るように軽く。  次いで貪るように激しく。  温和(はるまさ)に噛み付かれるようなキスをされて、私は流されちゃダメだと思うのに、身体に力が入らなくなって、彼のキスにただただ翻弄(ほんろう)されてしまう。  どうしよう。気持ち、いい……。  舌を擦り合わされるように自分のそれを求められるのも、口の中を温和(はるまさ)の熱い舌が這い回るのも、口蓋(こうがい)を優しく舐められるのも。 「んっ、あ、……」  温和(はるまさ)の胸についたままの手のひらから、彼の力強い鼓動が伝わってきて、私はその脈打つような拍動にドキドキさせられてしまう。  下唇を()むようにされて、温和(はるまさ)のキスから解放されたとき、私は全身から力が抜けて恍惚となってしまっていた。  温和(はるまさ)がそんな私の頬を指先でスーッと撫で下ろしてから、濡れたままの唇に触れてくる。  そのまま薄く開いた唇を指先で軽くなぞって、滑るように首筋を辿って――。 「あ、――んんっ……」  首筋に触れられることが、こんなにもエッチな気持ちになる行為だなんて、私、知らなかった。  ゾクッと身体を震わせた私をじっと見下ろす温和(はるまさ)の目が、どこか熱を含んで感じられるのは気のせい? 「音芽(おとめ)……」  低く(かす)れた声で温和(はるまさ)に名前を呼ばれた途端、胸の奥がきゅん……として、頭に霞がかかったようにぼんやりしてしまう。
/698ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3103人が本棚に入れています
本棚に追加