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言われて、所在なく胸前でソワソワしていた手を取られて――。そのままグイッと引っ張られて温和の厚い胸板に押し当てられた。
ひゃっ、どうしよう!
わ、私っ、いま、温和の胸、触っちゃってる、よ!?
私は彼に触れている手をどうしたらいいか分からなくて、促されるまま肌に手を添えたまま、硬直してしまう。
さすがにその状態で温和を直視することが出来なくて横を向こうとしたら、「顔背けんな」って低く囁かれた。
その声に、私はビクッとして動きを封じられてしまう。
さっきから私、温和に命令口調で何か言われると、何故かそれに従いたい、と思ってしまう……。
なんだろう。
このゾクゾクした感じ。
「音芽、手、退けたら承知しないからな?」
真剣な顔で真正面から見つめられて、思わず「はい……」と素直に返事してしまってから、自分でその反応に驚いてしまう。
私、どうしちゃったんだろう。
温和の逞しい胸筋の感触を直に感じることが恥ずかしすぎて、頬まで真っ赤に染めてしまっていると実感しているのに、温和の言いつけは私にとって絶対で。
温和から要求されてもいないのに、気がついたらもう一方の手も温和の胸元に伸ばしていた。
そうすることが正解だと、温和の視線から直感的に分かってしまう。
「音芽……」
私の積極的とも言える行動に、温和が一瞬瞳を眇めてから、それでもあえてそこには触れずにいてくれて。
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