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温和は毎日マイカー通勤をしている。
別に歩いて行けない距離ではないくらい近いところにある職場なんだけど、温和は時折車を出さないといけないことがある。
そんなとき、いちいち家に帰らなくていいように、という配慮から今のスタイルになったみたい。
温和に、今日から一緒に出勤すると宣言された私は、ソワソワと落ち着かない気持ちを抱えていて。
だって温和はすごくかっこいいんだもの。
対して私は童顔だし、お世辞にも美人とは言えないの。
温和は何故か私の見た目を気に入ってくれているみたいだけど……それはきっと幼い頃から一緒に大きくなった慣れとか親しみみたいなものが大きいんだと思う。
いわゆる身内びいきというやつ。
鶴見先生が私に興味をもってくださったのだって、きっと彼が特殊な趣味嗜好の持ち主だっただけに違いなくて。
同じ血を分けた兄妹だけど、兄の奏芽は綺麗な顔をしていると思う。
そうして私は、そのカナ兄からずっとチンチクリン呼ばわりされて育ってきたの。
カナ兄が連れていた歴代の彼女さんはみんなとても綺麗な人だった。
入れ替わりが激し過ぎて、きっと全員は把握できていないけれど、知っている限りの人たちはみんなハッとするような美女ばかりだった。
そんな、審美眼を持ったカナ兄がブスだって切って捨てた妹だもの。
小さい頃、カナ兄から「音芽は不細工だから誰のお嫁さんにもなれない」って言われたの、今でもしっかり覚えてる。
現に今まで私、異性から一度も告白なんてされたことないしっ。
(うー、今思い出しても……あれはかなりショックだったなぁ)
そう。「私は可愛くないんだ」って自覚させられて、それが軽くトラウマになる程度には。
そういえば……あの時、悲しくて悲しくて泣きながら温和の服の裾を掴んだ私に、温和、「音芽は大きくなったら俺のお嫁さんになるんだろう? だったら奏芽の言うことなんて気にする必要ないじゃないか」って言って唇に優しく触れてくれた。
もうそれ以上泣くなって意味で口をシーッて優しく。
それからそこに咲いていたお花で指輪も作ってはめてくれたの。約束の指輪だよって言って。
もしかして温和、それを律儀に守ろうとしてる、とかじゃ……ないよね?
そんな昔のことをふと思い出して、私は堪らなく不安になってしまった。
温和は根っこの部分がすごく真面目な人だから……有り得る気がして。
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