3144人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの……温和」
恐る恐る運転席の温和に声をかけたら「なんだ?」って前方を見つめたまま返された。
「もしかして……小さい頃に私をお嫁さんにしてくれるって言ったの、覚えていたり……する?」
恐る恐る聞いてみたら、「んな昔のこと覚えてるわけねぇだろ」って即答されて。
私はホッとしたのと同時に、少し寂しくなった。
ギュッと太腿の上で手を握りしめて俯いたら「ひょっとして……お前、ずっとそのつもりで俺に縛られてたってこと?」と問い返されて。
私はドキッとしてしまう。
温和の事、ずっと好きなのは確かだけど……そんなおこがましいこと、思ってもみなかった。
もちろん、子供の頃の私はその言葉を信じて温和にくっ付いて回っていたけれど――少し大きくなってからは身の程をわきまえたの。
私なんかが温和のお嫁さんになんてなれるわけないって。
そもそも温和は私のこと、異性として意識なんてしてくれっこないって信じてたから。
そんな小さな頃に言われた社交辞令を信じて、束の間でも夢見てたことがあるなんて言ったら、きっと気持ち悪いって思われちゃう。
温和にとっては記憶にも残っていないような口約束だもん。
「ばっ、バカなこと言わないでよっ。そんなこと、思ってたわけないじゃないっ」
窓外に視線をやって慌ててそう言ったら、温和が小さく舌打ちをした。
ん? 温和? もしかして……不機嫌? 何で?
最初のコメントを投稿しよう!