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歩いてくるよりは早く職場に着いたけれど、ここでモタモタしていて始業時間に遅れては元も子もない。
私はシートベルトを外しながら温和に「遅れちゃうよ? 行こう?」と声をかける。
温和はまだ何か言いたそうだったけれど、私は敢えて気付かない振りをした。
荷物を手にふたり並んで歩きながら、ふと付け加えるように
「温和も、だよ?」
恐る恐るさっき思ったことを告げてみる。
「俺も?」
さすがに間を空けすぎてしまったみたい。
温和がきょとんとするのを見て、私はそのまま説明するべきか否か束の間迷った。
「温和も……私の……シ……だっていうの、忘れないで過ごして欲しい……な……?」
本当は「私の彼氏」って言いたかったけれど、何となく恥ずかしくて言葉を濁してしまった私に、温和が不意に立ち止まる。
「温和?」
急に歩みを止めた彼に合わせて止まったら、「お前の、なんだよ? ハッキリ言われねぇと分かんねぇよ」って絶対察しててとぼけてるよね?
オロオロと温和を見つめ返したら、分からないからお前の思うようにしてやれないかもな?って付け加えられて、私は慌ててしまう。
躊躇いがちに「……分かるでしょ?」ってつぶやくように言ってみたけれど、軽く睨まれてひるんでしまう。
仕方なく、真っ赤になりながら一生懸命言葉を探して、消え入りそうな声で「私の……かれ……し」と言ったら、途端、温和が私を追い抜いて歩き出してしまって。
すれ違いざまに手を取られて、私は温和に引っ張られるように歩き出す。
「は、温和?」
呼びかけてふと見つめた温和の耳が真っ赤になっているのを見て、私は瞳を見開いた。
言わせたくせに照れるとか……温和、反応が斜め上過ぎて心臓に悪いっ。
でも、やっぱり私はそんなところも含めて温和が大好きだなって思ったの。
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