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保健室前で深呼吸をしてから、意を決して扉をノックする。
「どうぞぉ〜」
柔らかな声が返って来て、私はそっと引き戸を引いた。
「逢地先生、すみません、お時間を作っていただいて」
室内に入ると、逢地先生が部屋の片隅に置かれたパソコンから顔を上げて、こちらを見てにっこりなさった。
「大丈夫ですよ。あ、でも――ちょっと待ってくださいね。書類、保存しちゃいますので」
おっしゃってマウスをカチカチと操作する音が室内に響く。
私はそれを入り口付近に突っ立ったまま所在なく見つめていた。
「あ、鳥飼先生こちらへどうぞ」
パソコンをスリープ状態になさった逢地先生が、窓際に置かれた4人がけのテーブルと椅子を指差していらした。
保健室らしく、白色のテーブルと桃色の椅子。
「あ、はい」
いそいそと勧められた席へ座ると、逢地先生が「コーヒーでいいですか?」と声をかけていらして。
どうやら保健室、隅っこの方にコーヒーメーカーがスタンバイしてあるみたい。
よく考えてみれば、体調不良の児童を連れて来たり見舞ったり以外で、ここを訪れたことはなかった。
改めて室内を見回してみると、淡いピンクのカーテンがかかった窓から、柔らかく淡い夕刻の日差しが差し込んでいた。
「あ、あの……用が済んだらすぐにお暇しますので……ホント、お構いなく」
職員室で温和が待っていてくれると思うと、悠長にお茶をしながら長話をするのは何か違う気がして。
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