真相が知りたい

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***  保健室前で深呼吸をしてから、意を決して扉をノックする。 「どうぞぉ〜」  柔らかな声が返って来て、私はそっと引き戸を引いた。 「逢地(おおち)先生、すみません、お時間を作っていただいて」  室内に入ると、逢地(おおち)先生が部屋の片隅に置かれたパソコンから顔を上げて、こちらを見てにっこりなさった。 「大丈夫ですよ。あ、でも――ちょっと待ってくださいね。書類(これ)、保存しちゃいますので」  おっしゃってマウスをカチカチと操作する音が室内に響く。  私はそれを入り口付近に突っ立ったまま所在なく見つめていた。 「あ、鳥飼(とりかい)先生こちらへどうぞ」  パソコンをスリープ状態になさった逢地(おおち)先生が、窓際に置かれた4人がけのテーブルと椅子を指差していらした。  保健室らしく、白色のテーブルと桃色の椅子。 「あ、はい」  いそいそと勧められた席へ座ると、逢地(おおち)先生が「コーヒーでいいですか?」と声をかけていらして。  どうやら保健室、隅っこの方にコーヒーメーカーがスタンバイしてあるみたい。  よく考えてみれば、体調不良の児童を連れて来たり見舞ったり以外で、ここを訪れたことはなかった。  改めて室内を見回してみると、淡いピンクのカーテンがかかった窓から、柔らかく淡い夕刻の日差しが差し込んでいた。 「あ、あの……用が済んだらすぐにお(いとま)しますので……ホント、お構いなく」  職員室で温和(はるまさ)が待っていてくれると思うと、悠長にお茶をしながら長話をするのは何か違う気がして。
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