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「は、はい……」
ごくっと唾を飲み込んで手にしたコーヒーカップをグッと握る。
意識したつもりはないけれど、指先が白くなるぐらい力を入れて持っていたみたいで。
「鳥飼先生は……その……か、彼のこと、お好きなんです、よね?」
いつもは大人な女性と言う感じで、割とはきはきとした物言いをなさる逢地先生が、躊躇いがちに言葉を紡いでいらっしゃることに私までドキドキさせられてしまう。
彼って……。温和のこと、だよね?
そう思った私は、黙ってコクンとうなずいた。
「ですよね。よくおふたりで話していらっしゃるの見かけますし……そうじゃないかなって私、分かっていたんです……。それなのに」
そこで逢地先生は手にしていらしたカップをソーサーに戻すと、
「私、知ってたのに……どうしても気持ち、抑えられなくて……。彼に……その、告白……してしまいましたっ」
ごめんなさいっ。
言いながら頭を下げていらっしゃる逢地先生に、私は戸惑ってしまう。
だって私には逢地先生を責める権利、ないでしょう?
誰かが誰かを好きになるのは自由だもの。
どっちが先に好きになったか、とか……そんなのは関係ないはずで……。
ましてやあの頃の私は、まだ温和と付き合えていなかったのだから。
「あ、あのっ。私、その頃は別に彼とお付き合いしていたわけじゃなかったですし……だから……その……謝らないでくださいっ。お顔、上げてくださいっ」
思わず席から立ち上がって逢地先生の肩に触れると、逢地先生がゆっくりと私のほうを見つめていらして。
「そんな……優しい言葉を掛けていらして……宜しいんですか? 私、彼からお付き合いのOKをもらってしまったんですよ?」
逢地先生の澄んだ瞳が私をじっと射抜いてくる。
言われた言葉の意味を理解した瞬間、足元がガラガラと音を立てて崩れた気がして、私は思わず机に手をついて身体を支えた。
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