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「え、でも……。え? 嘘……」
何を、言ったらいいんだろう。
温和は幼い頃からずっと、私だけを見ていてくれてたんじゃ、なかった、の?
あの言葉は嘘……だったの?
じゃあさっき清廉潔白だって……そう言ってくれたのも……全部全部、口から出まかせ?
泣きたくなんてないのに、視界が涙でぼんやり霞んできて、私はテーブルに両手を付いてうつむいたまま、顔を上げることができなくなる。
「鳥飼、先生……?」
逢地先生がそんな私の名前を気遣わしげに呼んでいらっしゃるけれど、お返事をしたらもっともっと泣いてしまいそうで、身動きが取れない。
「ごめんなさい、鳥飼先生。ショック、ですよね」
言って、逢地先生からそっとハンカチを差し出されて、私は泣いていることを隠し切れない自分を心底情けないって思ったの。
淡いピンクに花柄の、柔軟剤のとってもいい香りがする女性らしいハンカチ。
その香りが鼻先をかすめた途端、それによく似た温和の体臭を思い出して、余計に辛くなる。
「今朝も……もっと上手に鳥飼先生にお電話の件、伝えられなかったのかな?って後悔したんです」
電話の、件?
ああ、昨日……。温和が私を置いて出て行ったアレのこと、だよね。
でもあの電話の話、逢地先生、私に、じゃなくて明らかに温和に向けて話してらした気が。
あ、あのやり方が上手じゃなかったって思っていらっしゃるってこと、かな。
逢地先生の物言いに何となく引っかかりを覚えた私は、そろそろと顔を上げて彼女を見つめた。
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