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「泣かせてしまってごめんなさい、鳥飼先生。――仲睦まじい様子だったおふたりの間に割り込むようになってしまって……本当に反省しています。でも……電話の後、ふたりっきりでお会いしたら気持ちが止められなくなってしまって……。本当に自分本位だったと……反省しています……」
逢地先生は申し訳なさそうにそう仰ると、ソーサーの縁を指でなぞりながら束の間逡巡なさっておられるようで。
「でも……私っ! 本当に彼のことが好きなんです。だから……ごめんなさいっ。鳥飼先生を泣かせてしまうって分かっていても、引き下がること、出来ないんです……!」
ややして決心したように私のほうを見て、そうおっしゃった。
逢地先生の視線はとても真っ直ぐで……彼女が本気なんだって言うのがひしひしと伝わってくる。
「あの……でも……私も……」
私も温和に付き合おうって言われたんです。
それに私だって彼のこと、大好きでっ。
だから……引き下がれません!
そう言いたいのに……何故か喉の奥に声が引っかかって一言も音にならなくて……机に付いたままの手をギュッと握り締めることしかできなかった。
私が反論しようとしたからかな。
逢地先生が切羽詰ったような声音で言い募っていらした。
「彼が怪我をしてしまったとき、真っ先に私を思い浮かべてくれたこと、私、心底嬉しいって思ったんです。いつも一緒にいらした鳥飼先生に、ではなく私に電話をくれたことが。本当にたまたま連絡先の並びのせいだったとしても……そこに運命を感じてしまうほどに……嬉しかったんですっ」
あの瞬間、鳥飼先生に勝ったって思ってしまった私は、すごく浅ましい女です。
逢地先生が一気に吐き出していらした言葉に、私は「え?」と思う。
ちょっと待って、逢地先生、今、何て?
「お、逢地先生……。か、彼って……」
「え? もちろん、鶴見先生……です」
逢地先生が鶴見先生の名前を口にした瞬間、私はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「と、鳥飼先生……!?」
逢地先生が慌てて立ち上がると、へたり込んだ私のすぐ横に膝を付く。
「お、逢地先生、誤解……です」
私は泣き笑いのような変な表情になりながら、逢地先生につぶやいた。
「わた、私が好きなのは……霧島先生、です……。鶴見先生じゃ、ありません」
私のその言葉に、逢地先生が息を飲まれたのが分かった。
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