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「あ、あのっ、逢地先生……」
逢地先生に抱きしめられたままだったので小さく身じろぎすると、彼女がやっと腕の力を緩めてくださった。
私には奏芽しかいないけれど、優しいお姉さんがいたらこんな感じなのかなってふと思う。
「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて……私ったら」
私の声かけを、抱きしめてしまったことへの抗議だと思われたのか、逢地先生が頬を染めて申し訳なさそうな顔をする。
「鳥飼先生、可愛らしいから……つい」
そんなことを言われたの、初めてだ。
いつもカナ兄にはチンチクリンだと揶揄われまくりだったので、何だかくすぐったい気持ちがしてしまう。
逢地先生につられて赤くなってから、それでも一生懸命言葉を紡いだ。
「さっき言おうとしたことの続きなんですけど……」
2人、床にしゃがみ込んだままで話し続けるのもおかしいので立ち上がると、「す、座りませんか?」と声をかける。
私を見上げてハッとしたお顔をなさった逢地先生が「それもそうですね」と微笑んだ。
逢地先生、案外テンパると私より抜けちゃうところがあるのかも知れない。
予期せず逢地先生の可愛らしいところを発見できた私は、今まで以上に彼女に親しみを感じてしまう。
だから余計に――。
どうか私の勘違いでありますように、と祈らずにはいられない。
各々テーブルを挟んで差し向かいに座り直すと、
「あの日の放課後……逢地先生、はる……霧島先生と……用具倉庫のところで……その……何をなさってらしたんですか?」
私にはアレ、温和が逢地先生にキスをしようとしているように見えたのだ。
逢地先生からの返事が怖くて、心臓がバクバクしてしまう。
逢地先生は記憶をたどるように指先でちょんちょんと唇を何度かタップなさって…
「ああ、アレっ!」
不意に何かを思い出したようにポンッと手を打った。
私は逢地先生の一挙手一投足にドキドキさせられてしまう。
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