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「なぁ音芽。こっち向けよ」
温和が身じろぐ音がして、私の頬に彼の手が触れる。
大きくて少しゴツゴツした……でもふわりといい香りのする、大好きな温和の……手。
「は、恥ずかしいっ、のでっ」
ぎこちなく思わず敬語でそう言ったら、クスクス笑われてしまった。
それから不意に静かになると、温和が小さく咳払いをする。
「……その、悪かった。――あれは俺も色々まずかったって反省……してる、から」
言って、小声で「……一応」と付け加えるところが、素直じゃない温和らしくて愛しいな、と思ってしまった。
そのひねくれ者の温和が。
いらない一言を付け加えつつも謝ってくれたことに、私は少なからず気持ちが和らいでくる。
「本当に……反省、してる?」
温和から顔を背けたままポツン……とつぶやいたら「何度も言わせるな」って……。
本当温和、素直じゃないな。
「何度も言って欲しい……。でも……」
言って温和のほうを振り返ると、存外間近に迫っていた彼の頬を両手で挟んだ。
私からのいきなりの反撃に、温和が戸惑ったように視線をそらせるのが可愛くてっ。
「2度と……私以外にそういうこと、しないって約束してくれるなら……。許して……あげます」
いつも温和に先生口調で叱られている私だけど、たまには私だって先生力、発揮してやるんだから!
温和の顔をじっと見つめて強気でそう言ったら、彼の頬に当てていた手をグッと掴まれた。
「大人しくしてれば言うようになったじゃねぇか、バカ音芽」
私の両手を掴んだまま、温和がじっと私の目を見つめてきて。
「俺にそこまで求めるってことは……お前もそれ相応のものを返してくれるってことだよな?」
ニヤリとして、「俺にはお前だけだって約束してやるから……。お前も俺に、俺だけのものになるって〝誓いのキス〟しろよ? ――できるよな?」って……本気ですかっ!?
そもそも……!!
何だかちょっぴり話が大きくなっている気がするのは……私だけでしょうか?
私が求めたのはそこまで大袈裟なものじゃなかったです、よ、ね?
そう思いながらも、ギュッと目をつぶると、私は温和の唇に触れるだけの軽いキスをした。
だってだって……私にはこれが精一杯なんだものっ。
そもそもここ、学校の敷地内の駐車場だしっ!
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