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照れ臭さに温和のほうを見られなくて、しばらく窓外を眺めていた私だったけど、話題転換も兼ねて何の気なしに「そういえば……明日から新しく入ってくる川越先生ってどんな人なんだろうね?」と言ってみた。
それこそ、さっきまでの会話の延長でさり気なく、のほほんと。
でも、その途端、温和が不機嫌になって、まとう空気がピリリと険しくなった。
え? 何で?
学年主任の温和は、私より先に川越先生のデータを見せられたのかな。
私と鶴見先生が入る時だって予め履歴書のデータをもとに打診があったみたいだし、だとしたら今回も?
あ。もしかして、そのデータに何かまずいところがあった?
確かに急に雇い入れることになった先生だし、学校側もそんなに吟味する時間がなかったのかも知れない。
でも、いくら何でもすごくダメな人は入れないと思うんだけどな。
少なくともうちの学校は私立の、そこそこ名門小学校だし……。
そう思って、ちらちらとハンドルを握る温和を窺い見たら、彼は溜め息をついた後、まるで私の言ったことなんてなかったみたいに話題を変えたの。
「……音芽。今夜はどっちの部屋?」
あ、あれ? えっと、私、いま、臨時雇いの先生の話をふってたよね?
その話、どこいったの?
「ねえ、温和、何で話題変えたの……?」
本当は温和の言葉に乗って、スルーすることも出来たのに、思わずそう聞いてしまってから、墓穴だったことに気がついた。
「お前だって照れ隠しに話、変えただろ、さっき」
至極当然のようにそう言い放たれて、私は言葉に詰まった。
はい。その通りです。
「それにな、嫌でも明日になれば分かることをわざわざ今話さなくてもいいだろーが」
2人きりのときくらい、仕事のこと忘れさせろよ、って付け足されたらそれ以上言えるわけない。
温和の様子が気にはなったけれど、私もせっかくの大好きな人との時間を、野暮な話で台無しにしたくないなって思った。
私はコクンッと小さく唾を飲み込んで、さっき問われた言葉への返事を返す。
「こ、今夜は……私の部屋でも……いい、ですか?」
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