3103人が本棚に入れています
本棚に追加
***
帰宅後、私たちは一旦各々の部屋に戻ることになった。
「お前の部屋から直接出勤出来るように支度してくるから、風呂溜めて待っといてくれるか?」
私が部屋の鍵を開けて中に入ったら、玄関扉を押さえて温和が言った。
「ん、分かった。――って、ちょっと待って! え!? ……と、泊まるのっ!?」
間近に迫った温和の顔を見上げて頓狂な声を上げたら、「何を今更」って笑われて。
まるでその先の言葉を封じるみたいに口付けをされる。
それから極め付けのように離れぎわ、耳元で「俺に見られて恥ずかしいモンがあるなら今のうちに仕舞っとけよ?」と小声で爆弾を投下していくの。
「――っ!」
まだ付き合っていない頃、子供っぽくて恥ずかしい下着を温和に見られたのを思い出して、顔が火を吹きそうになる。
何か言い返そうと思うのにうまく言葉が出なくて金魚みたいに口をパクパクさせてしまった。
「あとで、な? ――あ、そうだ、鍵」
そんな私を見て満足そうに口角を引き上げると、温和が思い出したように部屋の鍵を要求してきて。
意味が分からなくてきょとんとしたら、「鍵、開けたままで部屋にいるつもりか? 貸しといてくれたらお前がなんかしてて手が離せなくても、勝手に開けて入れるし、お前も楽だろ?」って言われた。
確かに楽――かもしれないけど。
トイレとか行ってる時に温和が入ってきたら、それはそれで恥ずかしいよ?
思ってソワソワと彼を見つめたら、「音芽、聞こえなかった?」って手を出された。
絶対温和、私が恥ずかしがってるの、知っててゴリ押ししてきてる、よ、ね?
思いながらも温和に強く出られると、私は従わなくちゃって気持ちになってしまうの。
鞄の中から、そろそろと例の温和似のペンギンマスコットのついた鍵を取り出して彼の手のひらに載っけたら「飾り、デカすぎ」って笑われてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!