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「お前さ、それ冗談抜きで言ってる?」
ムスッとした声音で問いかけられて、キョトンとする。
思わず腰を抱かれたまま後ろを振り返ったら、至極不機嫌そうな顔をした温和と目が合った。
「はる、まさ?」
何で彼は急にご機嫌斜めになってしまったんだろう?
さっぱりわからなくて小首を傾げると、「お前が鈍いのは知ってたけど、ここまでだったなんてな」って溜め息をつかれた。
温和は私の腰から手を解くと、玄関先に置いていた荷物を手に取ってスタスタとリビングへ行ってしまう。
「な、何で怒ったの?」
慌ててそんな温和の後を追ってオロオロする私を、温和が睨んでくる。
「本当に分かんねぇの?」
分かるのが当然みたいに聞かれたら分からないって言うの、躊躇われるよ。
でも、ここで嘘をついても私には彼の心変わりを察することは出来ないと思ったから。
恐る恐る「……ごめんなさい。分かりません」って小声で言ったら、盛大な溜め息をつかれてしまった。
「バカ音芽」
ややしてポツンとつぶやかれた声はどこか寂しそうで。
「温和……もしかして」
この感じ。彼は怒ってるんじゃなくて多分――。
「拗ねてる?」
リビングに突っ立ったままの温和の手をそっと握って顔を覗き込んだら、サッと目を逸らされた。
ああ、これ、絶対そうだ。
「温和さん、すごく分かりづらいんですけど……」
掴んだ手をギュッと握ってもう一度声をかけたら「分かれよ」って小さく吐き捨てられた。
「付き合い始めて初めての週末だろーが」
続けて、聞こえるか聞こえないかの声でそう言われて、温和が何を言いたいのかやっと分かった。
彼はきっと、週末に勝手に予定を入れてしまったことを寂しく思ってるんだ。
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