川越先生

10/13
前へ
/698ページ
次へ
 鶴見(つるみ)先生――。  私も一度なっちゃんと一緒にお見舞いに行かなきゃ。  ふとそこまで考えて、“温和(はるまさ)と”、ではなく“なっちゃんと”、とぼんやり思ってしまっている自分にハッとした。  私、何でこんな卑屈になってるの。 ***  教室の片隅に置かれた担任用の事務机に突っ伏すと、はぁーっと大きな溜め息をついた。  背中にカーテン越しの西日が当たって、ほんのりと暖かい。  こんなに川越(かわごえ)先生のことが気になってしまうのは何故だろう。  なっちゃんと温和(はるまさ)の関係を疑っていた時だって、ここまでひどく落ち込まなかったのに。  何だか川越先生と温和(はるまさ)を見ていると、心がざわついて止められないの。  このモヤモヤの正体を、私は掴みかけているのに……あと一歩が出てこなくて、根拠の持てない焦燥感ばかりが募る。  あーん、こんなことじゃダメだよ、私!  ここは川越先生を押し退けて、私が温和(はるまさ)の横をキープするのよ!くらいの気持ちでいなきゃ。  だって私――温和(はるまさ)の彼女だもの。  背も低くて顔だって美人じゃないし、スタイルだって負けてるけど。  でも……温和(はるまさ)はそんな“私がいい”って言ってくれたんだから。  自分を鼓舞して「よし!」と顔を上げようとして……ふと川越先生の綺麗なお顔を思い出してまたしても心がヒューッとしぼむ。  温和(はるまさ)の歴代の彼女、みんな美人だったの、私……知ってる。  私は……彼女たちに比べたらカナ(にい)のいう通り、確かにチンチクリンだ。 ***  机に顔を伏せたまま浮いたり沈んだり(せわ)しなくウダウダしていたら、不意に「鳥飼(とりかい)先生?」と声をかけられた。  完全に油断していた私は「ひゃっ」と変な声と同時に身体を起こして、危うくコロ付きの椅子から落っこちそうになる。  ギリギリのところで机にしがみついて尻餅だけは回避したけれど、ものすごく恥ずかしいっ。  ドキドキしながらゆっくり顔を上げたら――。
/698ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3102人が本棚に入れています
本棚に追加