近付くなって言ったよな?

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音芽(おとめ)、携帯鳴ってるよ?」  佳乃花(かのか)に肩を揺すられるけれど、眠くて目が開けられない。 「んー、電話(れんわ)(られ)ぇ?」  ローテーブルに伏せた顔をゆっくり起こして問えば、 「なんだろ、これ。えっと……オンワさん?」  佳乃花(かのか)の悩んだ声に、「ハルマサって読むんだよ。霧島(きりしま)先輩の名前だろ」って一路(いちろ)の声。  あれ?  一路いつの間に帰って来て……ってぼんやり思ってから「ん?」と思う。  ちょっと待って、今一路温和(はるまさ)って言った!?  一気に目が覚めて身体をガバッと起こしたら、クラッとして後ろにひっくり返ってしまう。 「ひゃっ」 「わっ、ちょっと音芽、大丈夫なの!?」  佳乃花(かのか)の声に、ピッという電子音が重なった。 「もしもし? あー、はい。音芽(おとめ)の携帯で合ってます。――え? あ、僕ですか? 覚えてないですかね? 高校ん時先輩と同じテニス部だった三岳(みたけ)一路です」  ちょっと待って、ちょっと待って!  一路、何で温和(はるまさ)からの電話に応答してるのっ!  そんなに飲んでもいないくせに、泣きじゃくったせいか、変にお酒が回っていた頭があっという間に覚醒する。 「ほら、音芽、霧島先輩。お前に代われって」  ってそりゃ、当たり前ですっ。  私のケータイだもん!  私にスマホを手渡しがてら、声を低めて一路が言うの。 「男の僕が出たから先輩、カンカンだかんな?」  ベッと舌を出す一路の後頭部を、佳乃花(かのか)がスパーン!と(はた)く。 「こじれさせてどうすんのよ!」  小声で始まった言い合いを横目に、私はそろそろと立ち上がると、「ごめん、廊下借りるね」と2人に仕草であやまってリビングを後にする。  ほんの少しふわふわする足取りも、緊張のせいでそんなに危なっかしくない。  足早に廊下に出て扉を閉めると、一度大きく息を吐いてスマホを耳に当てた。
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