近付くなって言ったよな?

3/26
前へ
/698ページ
次へ
「……もしもし」  言うと、一瞬沈黙があって、すぐさま盛大な溜め息とともに 『このバカ音芽(おとめ)! 先に帰っとけって言っただろ!? 俺、フラフラ出歩けって言った覚え微塵もねぇんだけど?』  って……温和(はるまさ)こそバカじゃん。 『しかも三岳(おとこ)と一緒とか、マジ有り得ねぇだろ!』  とか……川越(かわごえ)先生と2人きりだった温和(はるまさ)に、そんなの言われる筋合いない。  さすがにムッとして、 「佳乃花(かのか)も一緒だし……。それに私、ひとりぼっちの家に帰りたく……なかったんだもん」  絞り出すように不機嫌につぶやいたら、 『何で……』  って聞かれて。  私は温和(はるまさ)の鈍感ぶりに情けなくて泣けてきた。  さっき、佳乃花(かのか)の前で散々泣いて、涙なんて枯れ果てたと思ってたけど……お酒飲んだからまた補充されたのかな。 「温和(はるまさ)が……川越(かわごえ)セン、セとふたり(ふたっ)きりで……いなく、なっちゃっ、たからじゃん……。そ、ンなこともっ分か、っない……っ?」  1人、何のフォローもされないままに取り残されてしまった私が、どんなに寂しくて不安だったか。  温和(はるまさ)には分からなかったって言うの?  泣きじゃくりながらそう言ったら、明らかに電話口で温和(はるまさ)狼狽(うろた)えたのが分かった。  それだけで、私は不安だった気持ちがしゅーっとしぼんでいくのを感じた。
/698ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3103人が本棚に入れています
本棚に追加