近付くなって言ったよな?

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 そのまま私の横にポスッと腰掛けると 「……その。不安にさせて……悪かったな。俺もちょっと……一杯一杯だったから……」  言って、私の手をギュッと握ってきた。 「川越(かわごえ)先生とはホント何もねぇし、お前抜きで話したのだって……別に……その……やましいことをしてたわけじゃ……ない、から」  温和(はるまさ)の手、すごく冷たい。  私、緊張すると指先が冷えてしまうけれど、温和(はるまさ)も、なのかな。  そう思ったら温和(はるまさ)のことが愛しくてたまらなくなった。  温和(はるまさ)、今、私がどう出るか心配ですごく緊張してるの、かな? 「……ね、温和(はるまさ)。川越先生と……何を話したのか、教えて……くれない?」  それを知らないと、私の不安は拭えない。  そうしてその内容を知ることが出来たならきっと、温和(はるまさ)が私をあの場から遠ざけた理由や、校内では話をしなかった意味も理解できるかも知れないって、そう思ったの。  温和(はるまさ)は私の言葉に一瞬ピクッと肩を震わせると、ややしてポツンとつぶやいた。 「悪いけど――それは……言えねぇ」  温和(はるまさ)の告げた言葉の意味が理解できなくて、私は一瞬固まってしまった。 「音芽(おとめ)……」  温和(はるまさ)に気遣うように不安げな声音で呼びかけられて、私はやっと動けるようになる。 「なん、で?」  何で言えない、の?  小さくつぶやいたら、まるで温和(はるまさ)を責めるみたいな口調になった。  温和(はるまさ)はそれを甘んじて受けると「ごめん」と再度謝罪を重ねてきて。  私、そんな言葉が欲しいんじゃ、ない。
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