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「謝って欲しいんじゃ……ないよ? 私、温和があんな態度を取った理由が知りたいだけ。それ以上でも以下でも……ないっ」
言ったら、温和が立ち上がって背中を向けたまま
「だからっ……お前にだけは言えないんだって分かれよ、音芽。俺はお前を守りたいし、――そのためなら……例えお前に嫌われたとしても」
最後のあたりは消え入りそうで、温和が相当の覚悟で私には言えないのだ、と言っているのを感じさせられた。
ややして、温和はゆっくり振り返って私をじっと見つめると、
「……明日からも俺、同じようにお前じゃなくて川越先生と過ごす時間が増えると思う。けど……俺が好きなのは音芽だけだから……。それを忘れないで欲しいし……。できれば……こんな俺を信じて欲しい」
滅茶苦茶なことを言ってるのは自分でも分かってる、と付け加えて、温和が居たたまれないように私からツ……と、視線を逸らした。
ねぇ、どういう意味なの、温和。
私を守るためって何?
何にも言えないのに……信じろって……本当、言ってること、無茶苦茶だよ。
ギュッと下唇を引き結んで温和を見上げたら、彼がもう一度だけ小さな声で言ってきた。
「頼むから……これ以上はその事を考えたりするな」
私は温和の泣きそうにも聞こえるその声に、どう答えたらいいのか分からなくて……。何も言えずに彼をじっと見上げた。
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